碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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青春映画の秀作、映画『幕が上がる』

2015年03月09日 | 映画・ビデオ・映像



本広克行監督の『幕が上がる』を見てきました。

劇作家・平田オリザが2012年に発表した処女小説を、人気アイドルグループ「ももいろクローバーZ」の主演で映画化。静岡県にある県立富士ケ丘高等学校。演劇部所属の高橋さおりは、まもなく演劇部最後の一年を迎えようとしていた。個性的な部員たちとともに、年に一度の大会で地区予選突破を目標に掲げたさおりだったが、東京の大学で演劇をやっていたという美人の新任教師・吉岡先生に後押しされ、全国大会を目指すことになる。「踊る大捜査線」シリーズの本広克行監督がメガホンをとり、演劇に打ち込む高校生たちの青春を描いた。吉岡先生役で「小さいおうち」の黒木華、演劇部顧問の溝口先生役でムロツヨシらが共演。脚本を「桐島、部活やめるってよ」の喜安浩平が手がけた。


で、いきなり結論ですが、これは青春映画の、堂々の秀作です。

個人的にラッキーだったのは、原作は読んでいましたが、映画に関しては何の予備知識も先入観もなく、しかも「ももいろクローバーZ」についても詳しくないままに見たことです。

確かに、アイドルグループが主演の映画ですが、既成概念としての“アイドル映画”の範疇に、いい意味で納まりきらない出来の良さ(レベルの高さ)がありました。

原作は3年前に出版されたものですが、当然ながら小説そのままの映画化ではありません。

喜安浩平さんの脚本は、静岡という舞台だけでなく、「ももクロ」のメンバーに合わせる形で、登場人物のキャラクター設定などを巧みに変えてあります。

それだけに、ヘンに浮いたセリフもなく、等身大の彼女たちと、物語の中の演劇少女たちが、見事にシンクロしていました。

欲を言えば、平田さんの小説には“読む演劇教室”みたいな要素があり、その部分は映画でも、もう少し見たかったのですが、まあ、それはないものねだりということで。

何となく演劇部で、何となく芝居を続けてきたヒロイン(百田夏菜子、好演)をはじめ、「ももクロ」の面々が演じる演劇部員たちが、徐々に変化していく様子が丁寧に描かれています。

高校時代って、1年間でも、ぐっと成長する時期で、いや、時々刻々と変わっていく時期で、だからこそ儚くもあります。

その儚くて貴重な時間が、演劇を通過することで可視化されている、という感じでしょうか。

“高校部活系”映画としては、『ウオーターボーイズ』や『ピンポン』などの運動部や、『スイングガール』の吹奏楽部などがありましたが、「演劇」というのはそれらとも特質や方向性が異なり、その違いもまたこの映画を輝かせていました。

「ももクロ」だからとか、「アイドル映画」だからとか、「踊る大捜査線」の監督だからとか、その他諸々の予断を抜きにして、劇場で見てみることをオススメします。

そうそう、「ももクロ」以外のキャストの中では、黒木華が圧倒的にいい。

元“大学演劇の女王”で、高校の新任美術教師という役どころですが、この人が画面に出てくると空気が変わります。

それから、これは蛇足ですが、笑福亭鶴瓶だの、松崎しげるだのといった“ちょこっとだけ出ていただいた有名人”みたいなキャスティングは、本当に邪魔! 

もう少しで映画全体の好印象をぶち壊すところでした。要注意です。