本広克行監督の『幕が上がる』を見てきました。
劇作家・平田オリザが2012年に発表した処女小説を、人気アイドルグループ「ももいろクローバーZ」の主演で映画化。静岡県にある県立富士ケ丘高等学校。演劇部所属の高橋さおりは、まもなく演劇部最後の一年を迎えようとしていた。個性的な部員たちとともに、年に一度の大会で地区予選突破を目標に掲げたさおりだったが、東京の大学で演劇をやっていたという美人の新任教師・吉岡先生に後押しされ、全国大会を目指すことになる。「踊る大捜査線」シリーズの本広克行監督がメガホンをとり、演劇に打ち込む高校生たちの青春を描いた。吉岡先生役で「小さいおうち」の黒木華、演劇部顧問の溝口先生役でムロツヨシらが共演。脚本を「桐島、部活やめるってよ」の喜安浩平が手がけた。
で、いきなり結論ですが、これは青春映画の、堂々の秀作です。
個人的にラッキーだったのは、原作は読んでいましたが、映画に関しては何の予備知識も先入観もなく、しかも「ももいろクローバーZ」についても詳しくないままに見たことです。
確かに、アイドルグループが主演の映画ですが、既成概念としての“アイドル映画”の範疇に、いい意味で納まりきらない出来の良さ(レベルの高さ)がありました。
原作は3年前に出版されたものですが、当然ながら小説そのままの映画化ではありません。
喜安浩平さんの脚本は、静岡という舞台だけでなく、「ももクロ」のメンバーに合わせる形で、登場人物のキャラクター設定などを巧みに変えてあります。
それだけに、ヘンに浮いたセリフもなく、等身大の彼女たちと、物語の中の演劇少女たちが、見事にシンクロしていました。
欲を言えば、平田さんの小説には“読む演劇教室”みたいな要素があり、その部分は映画でも、もう少し見たかったのですが、まあ、それはないものねだりということで。
何となく演劇部で、何となく芝居を続けてきたヒロイン(百田夏菜子、好演)をはじめ、「ももクロ」の面々が演じる演劇部員たちが、徐々に変化していく様子が丁寧に描かれています。
高校時代って、1年間でも、ぐっと成長する時期で、いや、時々刻々と変わっていく時期で、だからこそ儚くもあります。
その儚くて貴重な時間が、演劇を通過することで可視化されている、という感じでしょうか。
“高校部活系”映画としては、『ウオーターボーイズ』や『ピンポン』などの運動部や、『スイングガール』の吹奏楽部などがありましたが、「演劇」というのはそれらとも特質や方向性が異なり、その違いもまたこの映画を輝かせていました。
「ももクロ」だからとか、「アイドル映画」だからとか、「踊る大捜査線」の監督だからとか、その他諸々の予断を抜きにして、劇場で見てみることをオススメします。
そうそう、「ももクロ」以外のキャストの中では、黒木華が圧倒的にいい。
元“大学演劇の女王”で、高校の新任美術教師という役どころですが、この人が画面に出てくると空気が変わります。
それから、これは蛇足ですが、笑福亭鶴瓶だの、松崎しげるだのといった“ちょこっとだけ出ていただいた有名人”みたいなキャスティングは、本当に邪魔!
もう少しで映画全体の好印象をぶち壊すところでした。要注意です。