「週刊新潮」に寄稿した書評です。
黒木登志夫
『死ぬということ
~医学的に、実際的に、文学的に』
中公新書 1320円
がん研究の第一人者である著者は現在88歳。理想の死とは何か、健康で長生きするにはどうしたらよいのかを探っていく。何より心強いのは、本書が「証拠に基づいて死を分析した本」であることだ。「寿命」という形で死を内包した存在だという人間。著者の理想は「ピンピン」と生きた上で、「コロリ」ではなく、「ゆっくり死」ともいうべき「ごろり」と死ぬことだ。さて、その真意とは?
倉本 聰『新・富良野風話』
財界研究所 1870円
著者が原作・脚本を手掛けた映画『海の沈黙』が11月に公開される。年明けに卒寿を迎える現役脚本家の面目躍如だ。本書はこの10年間に書き続けてきた時評エッセイ集である。「働き方改革」への違和感。AI(人工知能)と「創」。医学と哲学。電力消費と原発再稼働。ジャニーズ事件とマスコミ。台湾と能登の地震。そして、便利と豊かさが犠牲にしてきたもの。一度立ち止まって考えてみたい。
八名信夫『悪役は口に苦し』
小学館 1870円
日本を代表する悪役俳優である著者は現在88歳。本書は自ら語る一代記だ。岡山の映画館で少年時代を過ごし、高校野球部を経て東映フライヤーズのプロ野球選手となる。その後、俳優へと転身。悪役として活動する中で鶴田浩二や若山富三郎の薫陶を受けた。また内田吐夢、マキノ雅弘、深作欣二といった監督たちの作品でも存在感を示す。悪役は殺されにいくのではなく、「殺しにいく」のだ。
中川右介
『100年の甲子園
~阪神タイガースと高校野球1924-2024』
朝日新聞出版 3080円
阪神甲子園球場は今年100周年を迎えた。元々は戦前の旧制中学の野球大会のために作られた球場であり、やがて阪神タイガースの本拠地となった。タイガースと高校野球。双方が刻んだ歴史を並列で記した本書は前代未聞の野球史である。さらに画期的なのは、『男どアホウ甲子園』や『ドカベン』などの野球漫画にも言及していること。幅広い野球ファンに向けた、688㌻の分厚い剛速球だ。
(週刊新潮 2024.10.03号)