ドラマ「舟を編む~私、辞書つくります~」
言葉を愛する者へ敬意あふれ
21日、連続ドラマ「舟を編む~私、辞書つくります~」(NHK・BS)が完結した。
主人公は大手出版社・玄武書房に勤務する岸辺みどり(池田エライザ)。2017年、ファッション雑誌の編集者だった彼女は、辞書編集部への異動を命じられる。そこでは作業開始から13年、刊行は3年後という中型辞書「大渡海」の編集が行われていた。
当初は戸惑ったみどりだが、変わり者の主任・馬締(まじめ)(野田洋次郎)をはじめ、日本語学者の松本(柴田恭兵)や社外編集者の荒木(岩松了)など言葉を愛する者たちに刺激され、いつの間にか辞書作りにハマっていく。
原作は12年に本屋大賞を受賞した三浦しをん「舟を編む」だ。この小説では営業部から引き抜かれてきた馬締の歩みが軸となっていた。13年に松田龍平主演で映画化された際もほぼ原作通りだ。
一方、ドラマは原作の後半から登場する、みどりを主人公にした。彼女は馬締のような言葉の天才ではなく、ごく普通の女性だ。池田の好演もあり、見る側はみどりを通じて言葉の面白さや奥深さを知り、辞書を編むことの意味を身近に感じることができた。
例えば、「恋愛」の「語釈」(語句の意味の説明)を任されたみどりは、既存の辞書が恋愛を「男女」や「異性」に限定していることに気づく。実際に「広辞苑」で恋愛を引いてみると、「男女が互いに相手をこいしたうこと」とある。みどりは、時代感覚を反映し、異性を外しても成立する恋愛の説明を探っていく。
監修者の松本は、彼女の提案を元に秀逸な語釈を仕上げた。「特定の二人が互いに引かれ合い、恋や愛という心情の間で揺れ動き、時に不安に陥ったり、時に喜びに満ちあふれたりすること」
3年に及ぶ編集作業の中で、みどりたちはいくつものハードルを越えていく。「大渡海」専用の特別な紙の開発。社長からの出版中止命令。紙の辞書とデジタル版のセット販売という試み。さらに最終段階で「見出し語」の一つが抜けていることが発覚。他に欠落がないか、全体を総点検するのだ。
こうして、辞書を言葉の海を渡る舟になぞらえた「大渡海」が誕生した。
すべての言葉には生まれてきた理由があること。人が何かを伝えたい時、誰かとつながろうとすいる時、「言葉の持つ力」が助けとなること。加えて「紙の本」ならではの価値や魅力も、このドラマは示していた。辞書とそれを編む人たちへの敬意にあふれる、静かな秀作だった。
(毎日新聞 2024.04.27 夕刊)