「週刊新潮」に寄稿した書評です。
長谷川きよし:著、川井龍介:監修
『別れのサンバ~長谷川きよし 歌と人生』
旬報社 1870円
個性的な歌声と巧みなギターによる弾き語り。著者が「別れのサンバ」でレコードデビューしたのは1969年。20歳だった。2歳半で光を失った少年は12歳からクラシックギターに親しみ、高校時代には「銀巴里」のステージで歌っていた。盲目であることを売りにせず、また商業主義とも一線を画し、自分が納得のいく形で続けてきた音楽活動。人にも時代にも迎合しない生き方を淡々と語っている。
和田誠
『ビギン・ザ・ビギン~日本ショウビジネス楽屋口』
中央公論新社 2640円
かつて東京の有楽町にあった日本劇場。通称・日劇が閉館したのは1981年だ。本書は全盛期の日劇のレビューを演出していた山本紫朗の回想を軸に、江利チエミなど出演者や舞台関係者に取材したノンフィクション。82年に刊行された本の復刻版だ。日本のショウビジネスの歴史と日劇最後の日々を伝える貴重な一冊である。ちなみに山本紫朗は和田誠の伯父にあたる。そんな和田も逝去から5年が過ぎた。
アンドルー・ライセット:著、日暮雅通:訳
『シャーロック・ホームズの世界 大図鑑』
河出書房新社 4950円
著者はコナン・ドイルの伝記で知られる作家。本書ではホームズの生涯を明らかにしていく。名探偵が活躍した当時のロンドンを足場に、その政治的・社会的背景を探る。また探偵という仕事の発展と彼の取り組みを考察。さらにドイルの没後、ホームズの名声がどのように広まり続けたのかについても徹底検証している。読みやすい訳による文章はもちろん、大型本ならではの豊富な図版が嬉しい。
(週刊新潮 2024.11.21号)