碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

【新刊書評2024】 『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』

2024年11月30日 | 書評した本たち

 

 

大河ドラマの主人公を知る

田中優子『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』

文春新書 1100円

 

来年のNHK大河ドラマは『べらぼう』である。横浜流星が演じる主人公は、江戸時代中期に版元(出版業者)として活躍した蔦屋重三郎。浮世絵師の東洲斎写楽を見いだし、喜多川歌麿を育て、戯作者の山東京伝にスポットを当てたことなどで知られる人物だ。

書店には、例によって多数の「大河」関連書籍が並んでいる。その中で、田中優子『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』は〈真打ち〉と言っていい一冊かもしれない。なぜなら、著者は重三郎を出版人という枠を超えた、優れた「編集者」として評価しているからだ。

では、重三郎は何を編集したのか。浮世絵や洒落本はもちろん、狂歌師たち、芝居と役者、さらに遊女を花に見立てるなどの方法で「吉原」を編集した。

ただし、ここでいう編集は情報整理や文章校正ではない。文脈や意味の再構築であり、新たな価値の創出でもある。「編集の究極がディレクション、つまり方向を指し示し、ヴィジョンを見せることである」という認識を、著者は故・松岡正剛から引き継いだ。

本書を読み進めると、重三郎がいかにして時代の規制を超え、表現の自由を追求し、人々の心を掴んでいったのかがわかる。そこでは重三郎と江戸庶民との間に双方向的コミュニケーションが成立している。まさに「編集」の成果だ。

果たして、ドラマの中で吉原という江戸ならではの「場」や遊女たちと伝統文化の関係はどこまで描かれるのか。刮目(かつもく)して待つ。

(週刊新潮 2024.11.28号)

 


この記事についてブログを書く
« 18年目の「11月29日」合掌。 | トップ | 次の記事へ »
最新の画像もっと見る

書評した本たち」カテゴリの最新記事