その黒板は地下室にあった。からけん青年は胸躍らせて書かれた数式を見た。もちろん高校生ごときに分かるはずもなかったが、あのアインシュタインと接近したのだという感激は一生続いた。今やその高校にアインシュタインがきて講演したということを知る生徒は少ない。
僕の教室は南側で酒蔵に近く風向きによってはいい香りがした。よく先生方が窓際によってその酒蔵を眺めにおいをかいでいた。一杯やるのが待ちきれない様子で課外授業のときなど、「先生もういいですよ。あとは僕たちで勉強しますから。」というと、「おう、すまんな。」と言って授業を切り上げ学校から消えた。
そういう先生の授業は素晴らしかった。公務員みたいに時間から時間までだらだら授業するやつの授業は聞かない方が為になった。下手に聞くと分かったところまで分からなくなった。いつの時代にも馬鹿には疲れさせられる。
数日前わが高校の隣の酒蔵から火が出た。
先生方にはこのように出来不出来があったが校長はすべて事なかれ低能小物ばかりが来た。日頃のごますりが認められやっとご昇進なさったみたい。父親の関係でどの校長も僕を知っていた。そしてどの校長も医学部への進学を進めた。
バカ言いなさんな。あんたの自慢のためになぜおれの人生を変えなくちゃいかんのか。どうせ医学部にはうちの高校からはごまんと入っている。
どうも修猷館高校にかちたがっている。ときどき校長室に入れるという特権は十分活用したが、人の進路を利用して昇進しようというやつは許さん。
光を追い抜くニュートリノが出たようでアインシュタインさんも風向きがよくないが、彼を尊敬する気持ちは変らない。よくぞこの日本の果ての高校(当時は中学)に来てくれたもんだ。こくばんに案内してくれた先生ありがとう。僕はその先生に毎日のように数学の質問を持っていっていた。僕が何日考えた問題も即答してくれた。いまでも尊敬しています。
低能校長よ。僕のクラスからは3分の2が医者になったぞ。そんなことで満足か。