神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] BEATLESS

2012-11-10 18:09:20 | SF

『BEETLESS』 長谷敏司 (角川書店)

 

完璧なラノベ的フォーマットにおいて、人類の未来を描きつつ、人間とは何かという根幹を揺さぶる本格SFを体現することは可能か?

そういう大きな命題に挑戦したかのような作品。


時は今から100年後。5体のヒト型超高度AIが封印を逃れた。そのカタチは完全なる美少女。かつ、人類未踏産物を武器として持つ戦闘機械。

日本的なシンギュラリティは、あまりに日本的なオタク文化の現実化として社会を襲う。

チョロい少年、アラトが出合い頭にぶつかった美少女アンドロイドは、自分のオーナーになって欲しいと彼に頼む。そんな、モノとのボーイ・ミーツ・ガール。しかし、それはすべて超高度AIが仕組んだものだったとしたら。

それでも彼女を信じるアラトの想いは愛なのか、それとも、モノへの執着なのか。

モノ、カタチ、心、意味、アナログハック……。言葉の断片が刺となって引っかかりながら胸に残る。


しかしながら、実際のところ、ノレなかったというのが事実。ハードカバー649ページは果てしなく長かった。

5体の美少女アンドロイドが戦い、3人の妹たちが騒ぎ、眠りから覚めた天才的美少女が策をめぐらす。そんな世界は、自分にとってすでに現実感も何もない作り物の世界に見えた。

美少女と友人たちと敵しかいない典型的なセカイ系から、父親たちの存在を通して社会と、さらに経済とつながり、セカイ系を越えたところにまで到達する展開もうまいと思うのだけれど、その世界はあまりに作り物めいていて、共感も酩酊感もなかった。

残念ながら、これは作品の責任というよりは、読者である自分の責任だ。著者がやろうとしたことも見えているし、それが成功しているであろうこともわかる。しかし、この小説は俺のための小説じゃなかった。

この小説には、主人公と同年代の頃に出会いたかった。そして、今、その年代の少年たちにはぜひ読んでもらいたい作品だと思った。しかし、俺はこの小説を読むには歳を取り過ぎていた。

俺の少年時代はとっくに終わっていたのだ。

 

 


[SF] 暗黒のメルトダウン

2012-11-10 11:21:17 | SF

『暗黒のメルトダウン』 ギレルモ・デル・トロ&チャック・ホーガン (ハヤカワ文庫NV)

 

待ちに待ったというか、ほとんど忘れかけてた『ザ・ストレイン』の続編。3部作の第2部。

なんでこんなに遅くなってしまったのかというのは、最後まで読むとわかる。これは2011年には出版できないわ。文字通りメルトダウンしてるよ!

いや、Fukushimaも吸血鬼の巣だったんだよ!(ネタバレすぎ)


科学考証はある程度無茶でも、主人公たちが科学と実証主義に従って吸血鬼を追い詰めていくというスタイルがなかなか好ましかったのだが、この第2部ではその部分がちょっと弱め。吸血鬼の正体や弱点がある程度はっきりしているので、アクションホラー小説の枠を出ない感じ。そのため、どこかで見たようなシーンが連続してしまっている。

それでも、セトラキアンの過去や、新キャラの老ルチャドールの格好よさは抜群。鼠駆除業者のフェットも相変わらず頑張っている。

主人公のはずのイーフはちょっと不発。失敗ばかりじゃないか。彼が主人公であるということは、最終的にこの悪疫に人類が打ち勝つという結末を暗示しているはずなのだが……。

しかし、世界は核の冬と闇に包まれ、紫外線を嫌う吸血鬼たちの天下となった。人類は吸血鬼に新鮮な血液を供給するだけの家畜となり下がるのか。

第3部では、イーフを中心としたCDCチームの再結成と巻き返しと、期待をいい意味で裏切る結末に期待したい。


で、ブードゥーのおばちゃんはどこ行った?