完璧なラノベ的フォーマットにおいて、人類の未来を描きつつ、人間とは何かという根幹を揺さぶる本格SFを体現することは可能か?
そういう大きな命題に挑戦したかのような作品。
時は今から100年後。5体のヒト型超高度AIが封印を逃れた。そのカタチは完全なる美少女。かつ、人類未踏産物を武器として持つ戦闘機械。
日本的なシンギュラリティは、あまりに日本的なオタク文化の現実化として社会を襲う。
チョロい少年、アラトが出合い頭にぶつかった美少女アンドロイドは、自分のオーナーになって欲しいと彼に頼む。そんな、モノとのボーイ・ミーツ・ガール。しかし、それはすべて超高度AIが仕組んだものだったとしたら。
それでも彼女を信じるアラトの想いは愛なのか、それとも、モノへの執着なのか。
モノ、カタチ、心、意味、アナログハック……。言葉の断片が刺となって引っかかりながら胸に残る。
しかしながら、実際のところ、ノレなかったというのが事実。ハードカバー649ページは果てしなく長かった。
5体の美少女アンドロイドが戦い、3人の妹たちが騒ぎ、眠りから覚めた天才的美少女が策をめぐらす。そんな世界は、自分にとってすでに現実感も何もない作り物の世界に見えた。
美少女と友人たちと敵しかいない典型的なセカイ系から、父親たちの存在を通して社会と、さらに経済とつながり、セカイ系を越えたところにまで到達する展開もうまいと思うのだけれど、その世界はあまりに作り物めいていて、共感も酩酊感もなかった。
残念ながら、これは作品の責任というよりは、読者である自分の責任だ。著者がやろうとしたことも見えているし、それが成功しているであろうこともわかる。しかし、この小説は俺のための小説じゃなかった。
この小説には、主人公と同年代の頃に出会いたかった。そして、今、その年代の少年たちにはぜひ読んでもらいたい作品だと思った。しかし、俺はこの小説を読むには歳を取り過ぎていた。
俺の少年時代はとっくに終わっていたのだ。