神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 蒼穹のファフナー ADOLESCENCE

2013-04-02 23:50:23 | SF

『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』 冲方丁 (ハヤカワ文庫 JA)

 

なんと、アニメ『蒼穹のファフナー』を原作者(スタッフクレジットでは“文芸統括”)である冲方丁がノベライズした作品。なんで今頃と思ったが、電撃文庫から移籍の再刊。ついでに、Bluerayの販促も兼ねてということらしい。

正直って、アニメを見ずに読むのはお勧めしない。見てから読むのでも、読んでから見るのでも、アニメ必須。とにかく、小説だけでは完結していないどころか、描かれるのは、ほんの発端だけだ。

アニメとは甲洋の性格が違うし、三番機が“8人目の棺桶”になったりと、大幅にストーリーが異なる。しかし、詳細に語られる発端部分はアニメと変わらず、アニメでは良くわからなかった部分が補完されている。

特に、冒頭で死んでしまう雑魚キャラ扱いの蔵前のエピソードが悲しい。そんなことがあったなんて、まったく忘れてたよ。

アニメではよくわからなかった「あなたは―」の意味も、なんとなく把握。いわば、固体意識を持たない集合意識のみの存在の侵略であり、集合意識と離れた意識を敵と見做して同化する。それがフェスティムというわけだ。

そんなこんなで、読めば読むほどアニメを見直したくなる。さらに、小説としても、彼らの戦いを最後まで見届けたい。アニメのノベライズといえば、ただの焼き直しか、まったくの別物になってしまうことが多いのだけれど、これは小説とアニメが補完し合い、さらに昇華していく稀有な作品だと思う。

こういう小説が書けたのは、冲方丁がアニメ製作においても大きな権限を持っていたからなのではないかと思うのだけれど、どうだろう。

とりあえず、映画版『蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』も見なきゃなぁ。

 


[SF] 咎人の星

2013-04-02 23:11:09 | SF

『咎人の星』 ゆずはらとしゆき (ハヤカワ文庫 JA)

 

見送るつもりだったのだけれど、SFマガジンのインタビューで興味を持って買ってしまった。結果的に見送りで良かったのに。

 

1990年から1991年を舞台にしており、「22歳未満の方はご遠慮ください。」と帯にある。1970年生まれの自分にとっては大ストライクなはずなのだが、取ってつけたように『予備校ブギ』みたいなTVドラマの固有名詞が出てくる程度で、1990年の空気は微塵も感じられなかった。

ハッキリ言って、90年代よりも古臭い感じがする。もう、完全に、俺から見ても一昔前。学生運動華やかなころの残滓を、2010年代の感覚(エディッタのキャラは完全に現在のものだろう)で書いているようにしか読めない。つまり、肝心の90年代がすっぽり抜けてる。

香名子の母親が大きなカギにはなるわけだけれど、どちらかというと、その母親の方が時代を感じさせるキャラクターで、それに引っ張られて70年代後半のイメージが大きくなってるんじゃないか。

どういう意図のもとにか、付け足しのような評論を物語の最後に組み込むことによって物語がメタ化され、それによって小説部分のチンケさが増すという謎構成。物語の中に組み込まれた部分も含め、とにかく蛇足が多い。

インタビューでは、ライトノベルの青年誌版と位置づけているようだが、これならナポレオン文庫の方がよっぽどまし。

〈90年代の青春物語〉である前に、「漫画というメディアの過渡期」ってあたりが重要だったのか。しかもそれって少女漫画だったりするのか?

残念ながら、俺にはまったく興味の無い分野の話だったらしい。

 

 


[SF] 悪の教典

2013-04-02 20:49:16 | SF

『悪の教典(上下)』 貴志祐介 (文春文庫)

 

映画版は見ていないが、大島優子に同意。この小説は嫌いだ。しかし、その理由は同じではないと思う。

そもそも、このジャンルも嫌いだ。ジャンルで言えば、ホラーでもファンタジーでもなく、ミステリなのだろうと思う。いったいどうして、こんな陳腐な展開で陳腐なオチを付けなければならないのだろう。

いや、もしかしたら、最初からブラック・コメディのつもりなのかもしれない。だとしたら、さらに悪趣味だ。

映画ならば、ヒャッホーとか叫びながら、大笑いして見るグラインドハウス的なやつか。悪趣味も突き抜ければ悪くないが、それにしては、これはちょっと中途半端でいただけない。

下巻の序盤あたりまでの、蓮実がいかにして完全犯罪をやり遂げるか、というあたりは非常にスリリングで面白かったのだが、学校祭前夜のエピソードに入ってからがダメダメ。もう、コメディとしか思えない。

感情を持たない人間がいたらどうなるか。そういうSF的なテーマのIFの物語として読めないこともないが、この夜のエピソードだけであまりに陳腐化して台無し。

ファンタジーとして見ても、巨鴉のつがい、フギンとムニンの扱いがダメすぎ。蓮実の悪事を見届ける役割だったのが、最後は悪事をそそのかす幻覚になっている。この扱いは完全に伏線の失敗。残ったムニンが完全犯罪のほころびになるくらいのことは見せるべき。

ああ、そうか、ムニンが蓮実を暴走させることによって、結果的に復讐したということか。そうであれば、鴉ごときの復讐のコマにされた生徒たちは救われないな。

『新世界より』は完全にSF的なフォーマットで面白く読めたのだが、これは無理。この作品をおもしろいと思える人とは趣味が合わないと思う。

鈴木光司と貴志祐介はSFファン判別機になりえるな。そこから抜け出したのが瀬名秀明だったので、SF作家クラブ会長辞任事件は本当に残念なのだよね。あ、なんかぜんぜん違う話題になってしまった。