『宙の地図』 フェリクス・J・パルマ (ハヤカワ文庫 NV)
全世界でSFファンの裏をかき、度肝を抜いた『時の地図』の続編が出た! しかも、正統な続篇。あの人もこの人も健在。そしてなんと、主人公はH.G.ウェルズ本人だ。
前作の『タイムマシン』ネタに続き、今回は『宇宙戦争』ネタ。しかし、この『宇宙戦争』は、我々が知っている『宇宙戦争』とはちょっと違う。それもまた伏線だったとは。
リチャード・アダムス・ロックなんていう知る人ぞ知る実在ネタも、ちょっとだけ違う『宇宙戦争』も、極地の穴から“地底旅行”も、南極に住んでいる白熊も、とにかくマニアな人ほど喜んで騙される。どこからどこまでが歴史的事実で、どこからが捻じ曲げられた歴史なのか、思わずwikipediaで確認しにいってしまうほど。
そして、この地底旅行がまたすごい。今度はベルヌなのかと思いきや、なんと極地の穴まで到達できずに遭難。そこに襲い掛かる化け物。なんだこの“物体X”! 気付いた時には大笑いですよ。
しかしながら、遂に始まってしまった宇宙戦争は悲惨な敗北への道を転がり始める。いったいどうした、このまま終わってしまうのかと思ったところでの、あっと驚く大逆転。そうだよね、『時の地図』の続編だし。
騙されたことで爽快になれる作品なんてそうないのだけれど、これはある意味そういう話。いろんな小ネタが伏線として線につながっていくところは本当に気持ちがいい。
そして、もうひとつ特筆すべきは、物語への想い。エマの祖母から3代伝わる“宇宙の地図”に象徴される、物語の力。著者が本当に伝えたいことはこれなのかもしれない。ひとを喜ばせ、勇気づけ、時にはつらい現実から目をそらさせ……。
いけ好かないマリーが、最後にエマの心をつかんだのも、この力があってこそ。
生きるために切実に物語を必要とする人々は少なくない。そして、物語の力を信じる人々も少なくない。だからこそ、こうやって物語は生まれ、読まれ、伝わっていく。
物語の力を信じる人々に幸いあれ。
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