積読消化。
第60回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門受賞、第28回吉川英治文学新人賞、第137回直木三十五賞、センス・オブ・ジェンダー賞と、やたらめたらに文学賞を受賞しまくった名作。
これはぜんぜんSFじゃないけど面白かった。
鳥取の旧家を舞台に、女三代の物語が語られる。これが、地方都市における戦後日本の歴史をそっくりなぞるような展開で、戦後の昭和期を振り返る大河歴史小説になっている。
第一部は戦後でありながら、まだ神話や伝承が実体を持って色濃く残る時代。サンカの捨て子であり、予知能力を持つ娘が旧家の赤朽葉家に嫁いでくる。
この第一部はファンタジーの名残が感じられる時代の話で、ぐいぐいと引き込まれた。それでいて、主人項の万葉と、親友となったみどりの掛け合いは、ちょっと現代的で心地よかった。
第二部はツッパリ、スケバン時代にレディースの総長を張った少女が、バブルのお立ち台を経て、なんと少女漫画家としてデビューする。
第二部は怒涛の展開。こちらも主人公の毛鞠の親友として描かれるチョーコがいい味を出している。いかにもなしゃべり方で、時代感覚がよく捉えられていると思う。
自分は毛鞠の世代が一番近いので、校内暴力(金八先生や、ビーバップハイスクールの時代だ!)やバブル時代のエピソードに懐かしさを感じて、ニヤニヤしてしまった。
おもしろいのは、第三部。第一部の主人公である祖母が残した謎の言葉をめぐるミステリーが突如として始まる。
これまでの一部、二部から打って変わった展開に驚いたものの、もともとミステリーとして書かれたんだな、この小説、と納得した。
時代や世相の記述はぽつりぽつりと現れる程度になり、祖母が語った幻想的な逸話の再検証が始まる。この先は良くも悪くもミステリーな感じ。
個人的には、一部、二部の、ちょっとファンタジックでエキセントリックな、昭和振り返り小説としての方が、この作品に面白みを感じた。
あと、舞台がいつまでも紅緑“村”なのが気になった。駅前や中心街の記述を見ると、小規模な市ぐらいには見えるのだけれど。
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