『魔法の国が消えていく』 ラリー・ニーヴン (創元推理文庫)
積読消化。古本で購入。
魔法の源であるマナを有限な天然資源の一種であるエネルギー源としてロジカルに描いたことで有名な作品。
なんとwikipediaに日本語の項目もあるくらいの名作。ニーヴンの諸作でwikipediaに項目があるのは《リングワールド》とこのシリーズだけ。
“マナ”はメラネシア人の言葉から宣教師が紹介した概念らしいが、これをうまくヒロイックファンタジーに結びつけることで、ファンタジー世界が擬似科学の世界に近づくことになった。
この概念はマジックザギャザリングといったゲームや、現代の異世界系アニメ、ライトノベルにも受け継がれている。いわば、元祖的作品。これを読んでいると、一部の人にはちょっと自慢できるかもしれない。
マナは有限な天然資源ということから、石油枯渇のアナロジーとしての物語なのかと思っていたら、あまりそういう感じはしなかった。どちらかというと、マナが地上で不足しているなら、月を魔法で地上に引き降ろせばいいという案に、小惑星や彗星を資源化するという宇宙開発の発想の近さを感じて面白かった。さすが、ニーヴン。
さらにもうひとつ、創元文庫にしてはイラストが多い。小口の部分が黒く見えるほどで、ライトノベル並だ。絵師(!)はエステバン・マロート。古き良き時代の正統なヒロイックファンタジーといった様相の絵柄で、物語にとてもマッチしている。この絵柄は天野喜孝にも影響してるんじゃなかろうか。
イラストが多い創元SFはイラストレイテッドSFシリーズとして、全部で8冊あるらしい。そういえば、同じくラリー・ニーヴンの『パッチワーク・ガール』もそうだった。
そういう薀蓄はさておき、地上に残った最後の神であり、愛と狂気を司るローズ=カティの存在が面白い。この神様は、愛と狂気を司るといいながら、狂気に駆られた人間を理性的に戻す力があるのだ。これによって、人類は理知的になり、戦争を止め、農耕にいそしみ、文明が発展し始めたという。
ファンタジーの世界から、科学技術の世界への移行。それは、実は最後まで生き残った神の力のせいだったというのは、なかなか面白い皮肉な展開だ。そしてそれは、ハードSFである『リングワールド』と、ロジカルファンタジーである『魔法の国が消えていく』の両シリーズを代表作とする、まさにニーヴンらしい結末だったなと思った。
創元って、よく復刊フェアをやっているイメージがあるのだけれど、この手のイラストレイテッドSFは復刊しないのかね。
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