『影の王国』 ロイス・マクマスター・ビジョルド (創元推理文庫)
ビジョルドで創元で推理文庫レーベルなので、てっきり《死者の短剣》の続きだと思って買ったら、こっちは《五神教》シリーズの続編だった。とはいっても、前作とは時代も国も違う話。時代も、前作より前なんだか後なんだか。
どんな話だったかすっかり忘れていたけれど、5本指になぞらえられる五柱の神様はなんとなく覚えてた。特にお葬式のシーンは「そうそう!」という感じ。
しかし、この物語では五神教は渡来の新教。もともとあったアニミズム的精霊を、征服者が連れてきた五神教が駆逐してしまい、人々が征服者を押し戻した後でも五神教がこの地に根付いてしまったという設定。しかし、そこで強大な力を手に入れようとした王子が過去の精霊をこの世の中で呼び戻してしまう。
宗教戦争は現実世界でも数々あるが、それ以上にこうやって宗教が混合していくことも多い。日本でも神仏習合だし、キリスト教も耶蘇教となってカトリックとは似て非なるものになっていった。現代でも、南米やアフリカのキリスト教は現地の古代宗教と融合して訳の分からないことになっているらしい。そういう融合の過程の話としても面白いが、その過程で神々が精霊を敵視しないところが興味深い。これは五神教が絶対神を持たないことにつながるのだろうが、おそらくキリスト教徒であるビジョルドがどうしてこういう宗教をモチーフにしたのかというところが、実に興味深い。
神々に支配された人々の中で、精霊たちが果たすべき使命を神々が手助けする。ちょっと見方を変えると、既存の宗教への批判とも取れるわけだ。
それはさておき、宗教的な使命を果たすために命を懸けた男女二人の出会いと恋の物語でもあるし、荘厳な神話の結末でもあるわけで、何も考えずにビジョルド的ファンタジー世界に浸る心地よさを感じた。
そういえば、今回の主人公は珍しくおっさんじゃないとのことだったが、設定上の年齢はさておき、なんだか老成したおっさんぽかったと思うけどな。
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