泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

プラテーロとわたし

2015-11-02 16:12:47 | 読書
 

 池袋の最終フェア本もこれで読み納め。
 どれも興味深く、新たな視点を得ることができました。書店員の底力も感じました。
 プラテーロとは、ロバに与えられた名前。スペイン語の銀、プラータから。プラテーロは、お月様の色をしている。
 作者のヒメネスが、プラテーロとともに歩みながら、プラテーロに語りかける言葉でこの本はできています。
 今まで読んだどの本とも違った。
 もちろん、どの本も違うはずなのですが。
 日常のことしか書いていないから読みやすいはずなのに、なかなかどうしてすんなりとは読めない。
 詩人特有の言い回しや比喩が、すとんと身に落ちないもどかしさも覚えた。
 通勤途中に読むには向いていないのかもしれない。
 もどかしさは、ロバが身近にいないせいかもしれない。
 印象に残っているのは、ヒメネスが童話を嫌っていたということ。
 多くの動物たちが語り始めるのを好んでいなかった。
 なぜなら、動物には動物の言葉があると信じていたから。
 人間が動物に勝手に語らせることは動物に失礼だとわかっていた。
 わかっていながら、プラテーロに語りかけずにはいられなかった。
 言葉はわからずとも、言葉とともにある心の動き、愛情は伝わっていた。
 私は通勤途中に、相変わらず猫とミルクを分け合っていますが、あの静かな幸福感って何なのでしょう。
 人間以外の生き物と確かに共存している感覚。互いが互いを必要とし、認めている関係。
 魂が呼吸した時間を、一つ一つ言葉にしていった本と言えばいいでしょうか。
 たぶん、一度読んだだけでは、この本のよさはわからない。
 今日の一日が、かけがえのない一日だと気づくのに、何十年もかかるのと同じように。

 J.R.ヒメネス著/伊藤武好、伊藤百合子訳/長新太絵/理論社/2011

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