2月21日放送のTBS「報道特集」は、先週に引き続き人質事件の続報です。
(2015年2月11日のブログ「報道人の気魄1」の続き)
水面下で何が起きていたのか?これまで知らされていなかったことが
明らかになっていきます。
カダフィー政権下でリビア大使だった塩尻宏氏(現中東調査会参与)は、
今回の人質事件の対応をこう批判している。
「今まで私たちは個々の命は守る。かけがえのないものだということで、そういう人たちが
危険にさらされた時は、何を置いてもやってきた。
そうじゃなくて今はもう方針転換されて、個々の命よりも、もう少し
大きな大義がより重要なんだ
ということになったのは、大転換ですよ。考え方が基本的に変わった。
もう犠牲者が出てもいいんだということですよね」
事件の裏側が徐々に明らかになってきた。
1月29日に公開された後藤さんの妻の音声メッセージは
「私はシリアのグループによって拘束されたジャーナリスト後藤健二の妻です。
彼は2014年10月25日に、私の元からいなくなりました。
それ以来、私は舞台裏で休むことなく、彼の解放に向けて働いてきました」
後藤さんは10月下旬に消息を絶った。
11月に入ると取材仲間の間で、後藤さんの身に何か起きたのではないかという
ウワサが拡がった。
フリージャーナリストの安田純平氏は
「取材仲間の同業者から、(後藤さんが)11月の上旬にインタビューの仕事があるのに
帰っていないと、仕事が連絡なしでとんでしまっているということで、
どうもおかしいというウワサが流れた」
(後藤さんの妻が拘束を知ったのは、2014年12月2日。犯行グループからの
メールがきっかけという)
これと同じ頃、安田さんが後藤さんの妻を訪ねた時の印象は
「家族は『シリアに行って取材中です』としか話さず、マスコミに漏れることを
警戒していたようだ。
『連絡はついているか』とお聞きしたが、それについては明言せず、
何かしら事情があるという
ことは分った」
安田さんとともに自宅を訪ねたフリージャーナリストの常岡浩介氏は
「その後、後藤さんと親しいシリア人のガイドに連絡を取り、『後藤さんは「イスラム国」に
捕まっているのでは』と聞いたが、『その問題については話せない。
後藤さんの身に危険が及ぶからと言われまして』」
2月19日の国会での菅官房長官は
「12月3日に何者かに拘束されているというメールが(後藤さんの妻に)入った。
その交渉について後藤夫人が、民間の専門家に相談して対応してきている。
それに対して政府は、後藤夫人をサポートしてきた」
安田さん
「後藤さんから聞いた話だが、(後藤さんが)紛争地の取材をする
トレーニングを受けていると、
イギリスに本部のある会社で、レバノンで訓練を受けたと。
その会社に登録していると紛争地で行方不明になったり、誘拐された時、
捜索や交渉をしてくれる
団体という話をされていて、もしもの事態に備えて後藤さんは登録していた」
紛争地や危険地帯を専門とするセキュリティ情報会社(CTTSSジャパン)を
経営しているニルス・ビルト氏にインタビュー
「(後藤さんが登録していたというイギリスの会社は)とても評判の良い会社です。
後藤さんは訓練の後も、その会社と頻繁に連絡を取っていた。
そして後藤さんは、もし自分に何かあったらここに連絡しろと妻に話していたはずです。
そういう意味では、後藤さんはプロフェッショナルだったと思います」
アメリカやイギリス、ヨルダンやトルコの情報機関にも幅広くパイプを持つというビルト氏が、
複数の情報源から聞いたところでは
後藤さんの妻は後藤さんの行方が分からなくなるとすぐに、契約していたイギリスの危機管理
コンサルタント会社に連絡した。
この会社は拘束している相手が「イスラム国」だと確認すると、主にトルコのルートを使い
解放に向けた交渉を始めたという。
ビルト氏
「犯人側からの最初の要求額は約10億円でした。
そこから要求は20億円に上がったようです。
これは交渉が失敗している兆候に見えるかもしれませんが、そうとも言えません。
双方に何があったか知りませんが、”交渉の余地があった”とも解釈できます。
いずれにせよ10億円という要求は、この種の事件としては”それ相応の金額”ではあります」
年が明けても「イスラム国」と危機管理会社との交渉は続けられていたという。
安倍首相の中東訪問はその最中だった。
安倍首相のスピーチの3日後、「イスラム国」による脅迫ビデオが確認された。
その瞬間、後藤さんと湯川さんが「イスラム国」に拘束されているという事実が
世界中に知れ渡った。
ビルト氏
「『イスラム国』はあの演説を聞いて、日本は取引に関心がないと受け止めたでしょう。
仮に私が交渉を任されたとして、そこへ政治家が「『イスラム国』との戦いに
貢献します」などと言ったりしたら、私の立場は極めて厳しくなりますよね。
なぜなら私はもう一度、相手(「イスラム国」)に私は本当に交渉しているんですと
信じさせなくてはなりませんから」
その後、危機管理コンサルタント会社と「イスラム国」側の交渉は事実上、打ち切られたと
ビルト氏は見ている。
ビルト氏
「警察と外務省は後藤さんの妻に対して、その危機管理会社をもう使わないよう求めた
ようです。彼女はそれに従い、会社に連絡して、交渉を止めるよう告げたのでしょう。
そしてその時点で、交渉は日本の警察と外務省に引き継がれたのだと思います」
一方、外務省と警察幹部は、交渉を止めるよう妻に申し入れた事実はないとしている。
後藤さんの解放をめぐって、1月下旬まで行われたとされる「イスラム国」と
イギリスの危機管理コンサルタント会社との水面下での交渉ーその内容は
外務省にも報告されていたというが、
安倍首相は、衆議院選挙にまたがるこの期間の対応について、国会で答弁する。
「そもそも政府としての立場というのは、テロリストと交渉しないというのが政府の
基本的立場です。
しかし接触等については、この段階ではアイスルということが明らかに
なっていないのですから、
明らかになっていないのに接触して聞くと言うのは、こんな馬鹿げたことはもちろん、
しないわけでありますから。
そこで【ぶじょくちょうとうとう】(何度もいいかえすが聞き取れない。
部族長等々の意味か?)から様々な情報等を収集していたわけであります。
その中で残念ながら、まだ収穫がないという状況が続いていたということであります」
(なんと冷たい答弁だろう。自分の身内が人質でも、このように言えるのか)
金平キャスターがビルト氏にインタビュー
「(脅迫ビデオが公開された)1月20日以前に、2人の命を助けられる可能性はあったか」
ビルト氏
「『イスラム国』は交渉に応じてきた実績がある。トルコだって何十人もの人質の解放に
成功しました。だからチャンスは常にあります。
たとえそれが20%から30%でも、全く無いよりはましですよね」
最後に、他の国では人質解放に民間のコンサルタント会社が介在しているのかという
質問に対し、金平キャスターは
「民間のコンサルタント会社がいろいろなチャンネルを使って、結果的に人質が
返って来たケースはあるんですね。
フランスとかスペインとか、表面的には政府はテロに屈しないとか言いながらですね、
別のチャンネルを活かしておいて、少しでも助かる可能性を最大限にしておこうという
そういう努力というものを、最後の最後まで放棄しないんですね。
ビルト氏は日本の参議院の外交防衛委員会のシニア・アドバイザーを務めていたが、
今後の検証作業がちゃんと行われないのではないかという懸念を持っていて、
それで敢えて、私たちの取材に応じてくれたという背景があります」(引用ここまで)
もし安倍首相が中東であのような演説をしなかったら、もし対策本部をトルコに置いていたら、
もしあらゆるチャンネルや人を使って交渉していたら、もしイギリスの
民間コンサルタント会社との交渉を続けていたら、もし判断力や想像力があったとしたら・・・助かった命だと思わざるを得ない。
●「イスラム国」人質事件検証委員会の最終報告書に対する日刊ゲンダイの記事を
ブックマークに入れました。
宮家邦彦氏をはじめとする委員による、最初に結論ありきの検証結果です。
民主主義国家で、これは通用するのでしょうか。
(2015年5月31日 記)
(2015年2月11日のブログ「報道人の気魄1」の続き)
水面下で何が起きていたのか?これまで知らされていなかったことが
明らかになっていきます。
カダフィー政権下でリビア大使だった塩尻宏氏(現中東調査会参与)は、
今回の人質事件の対応をこう批判している。
「今まで私たちは個々の命は守る。かけがえのないものだということで、そういう人たちが
危険にさらされた時は、何を置いてもやってきた。
そうじゃなくて今はもう方針転換されて、個々の命よりも、もう少し
大きな大義がより重要なんだ
ということになったのは、大転換ですよ。考え方が基本的に変わった。
もう犠牲者が出てもいいんだということですよね」
事件の裏側が徐々に明らかになってきた。
1月29日に公開された後藤さんの妻の音声メッセージは
「私はシリアのグループによって拘束されたジャーナリスト後藤健二の妻です。
彼は2014年10月25日に、私の元からいなくなりました。
それ以来、私は舞台裏で休むことなく、彼の解放に向けて働いてきました」
後藤さんは10月下旬に消息を絶った。
11月に入ると取材仲間の間で、後藤さんの身に何か起きたのではないかという
ウワサが拡がった。
フリージャーナリストの安田純平氏は
「取材仲間の同業者から、(後藤さんが)11月の上旬にインタビューの仕事があるのに
帰っていないと、仕事が連絡なしでとんでしまっているということで、
どうもおかしいというウワサが流れた」
(後藤さんの妻が拘束を知ったのは、2014年12月2日。犯行グループからの
メールがきっかけという)
これと同じ頃、安田さんが後藤さんの妻を訪ねた時の印象は
「家族は『シリアに行って取材中です』としか話さず、マスコミに漏れることを
警戒していたようだ。
『連絡はついているか』とお聞きしたが、それについては明言せず、
何かしら事情があるという
ことは分った」
安田さんとともに自宅を訪ねたフリージャーナリストの常岡浩介氏は
「その後、後藤さんと親しいシリア人のガイドに連絡を取り、『後藤さんは「イスラム国」に
捕まっているのでは』と聞いたが、『その問題については話せない。
後藤さんの身に危険が及ぶからと言われまして』」
2月19日の国会での菅官房長官は
「12月3日に何者かに拘束されているというメールが(後藤さんの妻に)入った。
その交渉について後藤夫人が、民間の専門家に相談して対応してきている。
それに対して政府は、後藤夫人をサポートしてきた」
安田さん
「後藤さんから聞いた話だが、(後藤さんが)紛争地の取材をする
トレーニングを受けていると、
イギリスに本部のある会社で、レバノンで訓練を受けたと。
その会社に登録していると紛争地で行方不明になったり、誘拐された時、
捜索や交渉をしてくれる
団体という話をされていて、もしもの事態に備えて後藤さんは登録していた」
紛争地や危険地帯を専門とするセキュリティ情報会社(CTTSSジャパン)を
経営しているニルス・ビルト氏にインタビュー
「(後藤さんが登録していたというイギリスの会社は)とても評判の良い会社です。
後藤さんは訓練の後も、その会社と頻繁に連絡を取っていた。
そして後藤さんは、もし自分に何かあったらここに連絡しろと妻に話していたはずです。
そういう意味では、後藤さんはプロフェッショナルだったと思います」
アメリカやイギリス、ヨルダンやトルコの情報機関にも幅広くパイプを持つというビルト氏が、
複数の情報源から聞いたところでは
後藤さんの妻は後藤さんの行方が分からなくなるとすぐに、契約していたイギリスの危機管理
コンサルタント会社に連絡した。
この会社は拘束している相手が「イスラム国」だと確認すると、主にトルコのルートを使い
解放に向けた交渉を始めたという。
ビルト氏
「犯人側からの最初の要求額は約10億円でした。
そこから要求は20億円に上がったようです。
これは交渉が失敗している兆候に見えるかもしれませんが、そうとも言えません。
双方に何があったか知りませんが、”交渉の余地があった”とも解釈できます。
いずれにせよ10億円という要求は、この種の事件としては”それ相応の金額”ではあります」
年が明けても「イスラム国」と危機管理会社との交渉は続けられていたという。
安倍首相の中東訪問はその最中だった。
安倍首相のスピーチの3日後、「イスラム国」による脅迫ビデオが確認された。
その瞬間、後藤さんと湯川さんが「イスラム国」に拘束されているという事実が
世界中に知れ渡った。
ビルト氏
「『イスラム国』はあの演説を聞いて、日本は取引に関心がないと受け止めたでしょう。
仮に私が交渉を任されたとして、そこへ政治家が「『イスラム国』との戦いに
貢献します」などと言ったりしたら、私の立場は極めて厳しくなりますよね。
なぜなら私はもう一度、相手(「イスラム国」)に私は本当に交渉しているんですと
信じさせなくてはなりませんから」
その後、危機管理コンサルタント会社と「イスラム国」側の交渉は事実上、打ち切られたと
ビルト氏は見ている。
ビルト氏
「警察と外務省は後藤さんの妻に対して、その危機管理会社をもう使わないよう求めた
ようです。彼女はそれに従い、会社に連絡して、交渉を止めるよう告げたのでしょう。
そしてその時点で、交渉は日本の警察と外務省に引き継がれたのだと思います」
一方、外務省と警察幹部は、交渉を止めるよう妻に申し入れた事実はないとしている。
後藤さんの解放をめぐって、1月下旬まで行われたとされる「イスラム国」と
イギリスの危機管理コンサルタント会社との水面下での交渉ーその内容は
外務省にも報告されていたというが、
安倍首相は、衆議院選挙にまたがるこの期間の対応について、国会で答弁する。
「そもそも政府としての立場というのは、テロリストと交渉しないというのが政府の
基本的立場です。
しかし接触等については、この段階ではアイスルということが明らかに
なっていないのですから、
明らかになっていないのに接触して聞くと言うのは、こんな馬鹿げたことはもちろん、
しないわけでありますから。
そこで【ぶじょくちょうとうとう】(何度もいいかえすが聞き取れない。
部族長等々の意味か?)から様々な情報等を収集していたわけであります。
その中で残念ながら、まだ収穫がないという状況が続いていたということであります」
(なんと冷たい答弁だろう。自分の身内が人質でも、このように言えるのか)
金平キャスターがビルト氏にインタビュー
「(脅迫ビデオが公開された)1月20日以前に、2人の命を助けられる可能性はあったか」
ビルト氏
「『イスラム国』は交渉に応じてきた実績がある。トルコだって何十人もの人質の解放に
成功しました。だからチャンスは常にあります。
たとえそれが20%から30%でも、全く無いよりはましですよね」
最後に、他の国では人質解放に民間のコンサルタント会社が介在しているのかという
質問に対し、金平キャスターは
「民間のコンサルタント会社がいろいろなチャンネルを使って、結果的に人質が
返って来たケースはあるんですね。
フランスとかスペインとか、表面的には政府はテロに屈しないとか言いながらですね、
別のチャンネルを活かしておいて、少しでも助かる可能性を最大限にしておこうという
そういう努力というものを、最後の最後まで放棄しないんですね。
ビルト氏は日本の参議院の外交防衛委員会のシニア・アドバイザーを務めていたが、
今後の検証作業がちゃんと行われないのではないかという懸念を持っていて、
それで敢えて、私たちの取材に応じてくれたという背景があります」(引用ここまで)
もし安倍首相が中東であのような演説をしなかったら、もし対策本部をトルコに置いていたら、
もしあらゆるチャンネルや人を使って交渉していたら、もしイギリスの
民間コンサルタント会社との交渉を続けていたら、もし判断力や想像力があったとしたら・・・助かった命だと思わざるを得ない。
●「イスラム国」人質事件検証委員会の最終報告書に対する日刊ゲンダイの記事を
ブックマークに入れました。
宮家邦彦氏をはじめとする委員による、最初に結論ありきの検証結果です。
民主主義国家で、これは通用するのでしょうか。
(2015年5月31日 記)