カトリック社会学者のぼやき

カトリシズムと社会学という二つの思想背景から時の流れにそって愚痴をつぶやいていく

「神の国」の使信 ー 新約聖書とイエス(その7)

2018-10-22 21:28:05 | 神学


 川中師の「新約聖書とイエス」の講話は、学びあいの会の話題が彼方此方に飛んでしまい、フォロー仕切れなかったが、やっと元に戻ることになった。今回のテーマは「神の国の使信」である。
 ポイントは、「神の国」とは何のことか、「神の国」はいつ実現されるのか、という問いである。師は、百瀬文晃『イエス・キリストを学ぶ』、大貫隆『イエスという経験』などを参考文献としてあげながら、ご自身の整理と説明を展開される。

 まず、旧約聖書と新約聖書における「神の国」という概念を比較される。新約聖書は共観福音書が中心となる。基本的には「神の国」には、「神の王国」という意味と、「神の支配」という意味がある。王国と支配、この区別が神の国論の中心になる。Reich とHerrshchaft, Kingdom とRule, とでもいえようか。

3・1 旧約聖書における「神の国」

 旧約聖書では、神の国とは マルクート・アドナイ というらしいが、二つの意味というか使い分けがあるという。

 第一は 「神は王である」。王である神という言い方は、「わたしは主、あなたたちの聖なる神、イスラエルの創造主、あなたたちの王」(イザヤ書43・15)とか、「神は諸国の上に王として君臨される」(詩篇47・9)などにみられる。王とは何者かは歴史学ではいろいろ議論があるだろうだ、旧約聖書でいえば、当時の族長たちを統一して上に立った者というイメージだったのであろう。

 第二は、「神は支配する」。神による支配が現存することを神の国と呼んだ。「主は天に御座を固く据え、主権を持ってすべてを統治される」(詩篇103・19)、「あなたの主権はとこしえの主権、あなたの統治は代々に」(詩篇145・13)などは、神の国を神の支配として理解しているようだ。

3・2 新約聖書における「神の国」

 では、新約聖書ではどうだろうか。新約聖書では、「神の国」は、バシレイア basileia tou theou とよばれ、この表現は162回登場するという。「王国または支配」というこの概念の二重性は旧約聖書から引き継がれるが、王国とはつきつめれば、神が支配する領域(Herrschaftsbereich)という含意をもつが、支配といえば神が支配するという行為または遂行(Herrshcaftsvollzug)を含意するといえようか。やがて、「神の国」とは「神の支配」 Herrshcaft Gottes を指すという理解の仕方が優先されてくると言う。

 だが、細かく見ると、共観福音書でも違いがある。マタイ福音書では、「天の国」という概念・用語が登場するのだ。神の国 と 天の国 は違うのか。
 洗礼者ヨハネはこう言ったという。「その頃、洗礼者ヨハネが現れて、ユダヤの荒れ野で宣べ伝え、「悔い改めよ、天の国は近づいた」(マタイ福音書の3・1)。またイエスもこう言った。「そのときから、イエスは、(と言って宣べ伝え始められた。)「悔い改めよ。天の国は近づいた」(マタイ4・17)。マタイ福音書によれば、洗礼者ヨハネも、イエスも、天の国という言葉を使ったというのだ。

 では天の国と神の国はどう違うのか。

「イエスは弟子たちに言われた。「はっきりいっておく。金持ちが天の国に入るのは難しい。重ねて言うが、金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい」(マタイ19・23f)。
 このように、マタイは神の国という表現も使うことがあるが、それはまったく例外的な使い方である。マタイはユダヤ人に向かって話しているのだから、天の国という言葉を使う方が自然なのだろう。中川師はこれを「マタイによる対ユダヤ教的改変」と言っている。イエスは神の国と表現していたが、マタイはイエスの教えをユダヤ教に引きつけて、ユダヤ人にわかりやすいように、天の国という言葉をあえて使っていると考えられる。または、キリスト教(まだ生まれてはいないが)をユダヤ教のなかで説明しようとしていたのかもしれない。これは単に言葉の選択というより、ユダヤ教のもっている終末思想がキリスト教にどのように入り込んでいるかという大問題につながる。従って、マタイの「天の国」概念と比較すると、マルコの「神の国」概念は際だって重要に見えてくる。

3・3 共観福音書以外における「神の国」概念

 ヨハネ福音書(3・3・5)、使徒言行録(1・3・8,14・22,19・8)、パウロの書簡(ロマ書4・20,Ⅰコリント4・20)などに神の国という用語が用いられる。だが、この用法は徐々に廃れ、やがて「キリストの国」という新しい用法が登場してくる。だがこれは先の話である。(続く)

 

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