カトリック社会学者のぼやき

カトリシズムと社会学という二つの思想背景から時の流れにそって愚痴をつぶやいていく

遺伝子治療からゲノム編集へ ー ポストゲノム時代のパラダイムシフト(4)

2019-11-08 21:24:48 | 神学

Ⅲ 環境とゲノムのせめぎ合い (共生細菌・エピゲミクス)

 ここでは高垣氏は、細菌とエピゲミクスの話をされた。環境とゲノムがせめぎ合っている例として腸内細菌を取り上げられたようだ。

①共生細菌

 現代人の腸内細菌は約800種あるという。腸の様々な疾患は腸内細菌種の分布との相関が検出されているそうだ。氏は出産後の細菌叢の形成が生涯にわたって影響を与えると言われた。要は早期出産はよくないという話のようだった。母胎から子どもへ細菌がきちんと伝えられないということらしい。
光岡知足『人の健康は腸内細菌で決まる』(技術評論社)を推薦しておられた。

②エピジェネティクス Epigenetics  後世遺伝学

 後世遺伝学とはDNAの上書き現象を研究する学問らしい。氏によると、「身体は、皮膚・胃・肝臓など様々な組織からできており、これらは別々の細胞(約200種)で構成されている。どの細胞も基本的には同じ遺伝情報をもっているのに、別々の細胞になれるのは、使う遺伝子と使わない遺伝子に目印をつけているからである。エピジェネティクスとは、これらの目印を解明する学問である」という。考えてみれば一つの細胞から別々の細胞が作られてくるのは不思議と言えば不思議だ。
 細胞内のDNAは「ピストン」と呼ばれるタンパク質に巻き付いて出来ているらしく、氏は図を使って説明された。とはいえ、「DNAのCGのCのメチル化」といわれても私には理解できなかった。国立遺伝学研究所や遺伝学電子博物館のホームページに入って勉強しろと言うので帰宅してから覗いてみた。内容は一般向けの部分もあり、理解はできないが、ホームページとしては面白い作りだった。


Ⅳ バイオサイエンスと倫理 (遺伝子診断・遺伝子改変作物・ゲノム編集)

 ここはわれわれ素人には一番興味を抱かせたセクションだった。と言っても、氏は、現状を淡々と説明しておられた。要は、遺伝子診断の時代から、ゲノム編集の時代に変わってきていると言うことらしい。

①遺伝子診断は、特定の疾患以外、フェイクサイエンスである

 ここでは氏はかなり断定的に遺伝子診断を批判しておられた。フェイクサイエンスというのだから厳しい。
 氏によると、遺伝子検査は、米国FDAが2013年に23&Me社を禁止し、豪州では2015年に禁止されたという(1)。2017年4月には、FDAは10種類の病気に限り遺伝子解析サービスを認可した。2018年3月には、FDAは23&Me社の消費者直送型テストキットを公式に認可したという。これは日本の新聞でも報道されたのでご記憶の方も多いであろう。

 MYCODE マイコード という言葉も聞いたことがあるだろうか。自宅でできる遺伝子検査、DNA検査のことらしい。
 神奈川県は平成27年に「未病市場創出促進事業」なるものを始めて、今年は5件の ME-BYO
が認可されたという(2)。

 氏は、病因遺伝子の発見方法を説明された。臨床遺伝学では病因遺伝子をもつ人の発病率を浸透率と呼ぶが、病因遺伝子をもっていても発病しない例がたくさんあり、モディファイアー遺伝子の存在などが想定されているという。

 この後、高垣氏は、遺伝子治療の歴史を説明された。1985年に米国でヒト遺伝子治療のガイドラインが作成され、日本では1993年に厚生省が「遺伝子治療ガイドライン」を作成した。1990年頃から治療が実施されたが、失敗例(白血病様症状発症)や死亡例があり、2000年頃から、遺伝子治療はがん細胞を標的とするものに集約されていったという。ところがこれも成功とは評価されず、現在は「潮流は、ES細胞やiPS細胞による再生医療に移った」という。

②ゲノム編集

 ゲノム編集はこういう混迷する遺伝子治療を打破するものとして登場してくる。繰り返すと、人間の身体は細胞からできており、DNAはその細胞のなかに含まれる。このDNAを操作するのが遺伝子治療だが、これは遺伝子を注入することはあっても編集したり、書き換えたりはしない。ゲノム編集は遺伝子を追加・挿入・修正・削除したりする技術のようだ。
 氏はこの違いは、遺伝子治療は「遺伝子導入」、ゲノム編集は「遺伝子修正」とよんで、以下の図を使いながら説明された。

 

 

 

私にはこの図を説明する力は無い。図の下の方に、従来の遺伝子治療の限界、ゲノム編集による遺伝子治療の可能性、ゲノム編集による遺伝子治療の課題、という欄があり、細かい説明が続いたが私にはフォローできなかった。
 なお、下段に新書本が紹介されている。青野由利『ゲノム編集の光と闇』(ちくま新書2019)だ。私もちょっと読んでみた。とても読みやすい本だが、次のテーマの遺伝子改変作物についてはほとんど触れられていないのが残念だった(3)。


1 FDAとは Food and Drug Administration アメリカ食品医療品局のこと。
なお、23&Me社とは、遺伝子検査サービスをしている会社らしい。
2 ME-BYOとは「未病」のことらしい。神奈川県はサミットを開くなど力を入れているようだ。
3 著者は科学ジャーナリストのようだが、本書は、例のニュース、「中国の科学者がゲノム編集した受精卵から双子の赤ちゃんを誕生させたと主張している・・・改変したのはエイズウイルスの感染に関わる遺伝子だという」と話から始まる。著者が言うように遺伝子治療された人間が住む「新世界」が「素晴らしい世界」になるのかどうか、興味のある方は本屋で拾い読みでもされてはいかがだろうか。

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