カトリック社会学者のぼやき

カトリシズムと社会学という二つの思想背景から時の流れにそって愚痴をつぶやいていく

神学は学問なのか ー 『今日のカトリック神学』の要約(7)

2021-09-27 21:01:18 | 神学


 カトリック神学はそもそも学術(学問)なのか? この素朴な問いに、本文書は「神学は・・・学界において独特の立場を要求する」と宣言する。近代において合理主義と実証主義によって神学が学術の世界から追い出されてしまったことへの、国際神学委員会の反論と挑戦である。では、「独特の立場」とは何か。神学はどのような学術として認められたいのか(1)。

第2節 方法および専門分野の多様性における神学の唯一性

 第2節はこのように題されているが、「多様性における唯一性」とはなんともわかりづらい。要は、この節は二つのことを言っている。
 まず、神学は専門分化が進み、「諸神学の複数性」(2)が生まれたという指摘と、第二に、神学は「他の諸科学」との交流による「学際的な協力」のもとに発展してきているという指摘だ。この神学の専門分化と他の諸科学との相互作用によって神学はかっての神学とは異なるものに変わってきており、学術として独特の立場・位置・評価を求める、と言っているようだ。

[1]「諸神学」または神学の専門分化

 ギリシャ教父やラテン教父たちは神学ということばを「単数形」でしか用いられないと思っていた。神学は神話ではなく神のことばと思っていたからだ。だが、中世末期にいたり、スコラ神学と神秘神学の区別、思弁神学と実証神学の分離が起こると、神学という言葉は「複数形」で用いられるようになった。

 神学の専門分化は大きく見て以下の三つの形で進んだという。

①分野の拡大:聖書研究・典礼・教父学・倫理神学・司牧神学・霊性・要理・教会法などが独立した領域として成立してくる
②スタイルの多様化:超越神学・救済史神学・分析神学・スコラ形而上学神学・解放の神学などスタイルが多様化した。これは他の学問(社会科学・自然科学・文献学・歴史学・生命科学・哲学など)など外からの影響が神学に及んで、神学に異なった思考様式が共存し始めたからだ。
③実践面での多様化:主題・場所・制度・意向・文脈・関心の面で多様性が増大した

 神学の専門分化が進むのは不可避である。それは人間は真理を全体としてはつかめず、特定の側面でしか把握できないからだという。真理はいつも新たな目で見るしかない。それは、対象が多様だからだけではなく、人間が抱く疑問が相違しているからだという(3)。


[2]「他の諸科学」または学際的研究の進展

 神学はもともと哲学と協力し合って発展してきた。この関係は現在も基本ではあるが、近代では別のパートナーが見つかった。他の諸科学である。聖書研究はテキスト分析により、教会史は史料批判の発達により助けられている。組織神学・基礎神学・倫理神学は自然科学・経済学・医学との対話から学ぶ。実践神学は社会科学との対話から益を得る。神学が他の諸科学から学ぶことは多い。
 だが、こういう学際的協力は大事だが、神学者は他の専門分野の知見をまるで教導権でもあるかのように受け取ってはいけない。神学固有の原理や方法に照らしてそれらの知見やデータを採用し利用しなければならない。
 この場合は哲学は重要な役割を果たす。神学が他の諸科学と交流するとき、哲学は両者を「仲介する役割」をもっている。諸科学の成果をより普遍的なビジョンの中へと組み込むのは哲学である。たとえば、生命の進化に関する科学的知識は哲学に照らして解釈されることになる。

 他の諸科学の中で、宗教哲学や宗教社会学など神学と宗教を対象とした宗教研究との関係は特に興味深いものがある。19世紀には神学と宗教研究は対立関係にあった。一方で神学は信仰を前提としているから科学ではないという主張があり、他方、宗教研究は信仰を否定するものだから神学に反するという主張があった。両者の間でさまざまな論争があった。だが、現在は、この論争は実りある対話に取って代わられつつある。宗教研究はいまは神学の研究の方法の中に組み込まれている。
 とはいえ、神学と宗教研究との間には本質的な相違が残っている。宗教研究は宗教現象を信仰の真理から切り離して文化的関心のもとに研究する。神学は宗教現象を教会と信仰の内側から省察することによって宗教研究を超えていく。

 以上見てきたように、近代の合理主義と実証主義は神学を学術という家族から追い出したが、カトリック神学はいかなる形式であれ科学の自己絶対化は自己還元であり、病弊であると批判する姿勢に変わりはない。神に関する学術・信仰に関する学術として神学は、諸科学の調和に重要な役割をはたす。神学が学界において独特の立場を要求するとはこういう意味である。

 

(神学・宗教学分野で2020年世界大学ランキング1位のノートルダム大学 米国インディアナ州 カトリック系)

 

 

 



1 本文書での学術という訳語の意味がはっきりしないのでなんとも言えないが、ここでは学問とはsciencesの意味で、「理論に基づいて体系化された知識と方法」(「広辞苑」)という意味にとるなら、独自の理論と方法の存在がキーとなる。本文書は、当然と言えば当然だが、中世以来の「大学」での営為を学術と見なして議論を展開している。
2 これもわかりづらい翻訳だ。わたしなりに理解すれば、つまりは、専門分化の中で様々な形態の神学が複数生まれた。その複数性とは多元主義や相対主義のことではない。複数性とは様々な神学が誕生し発達したという意味のようだ。
3 人間が抱く疑問は無限だからだということであろう。こういう文言を読むと、現代のカトリック神学の懐の広さと深さが伝わってくる。

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