ごっとさんのブログ

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創薬研究の思い出話 その4

2021-06-17 10:55:35 | その他
前回書きましたように、動物実験でも目的とした効果が出れば、詳しい動物実験が始まり我々の出番はなくなるのですが、まれにここで問題が出ることがあります。

このシリーズの例で出したアンジオテンシン合成を阻害する降圧剤の場合、当初の実験は注射で行いますが、薬としては経口剤である必要があります。ところが注射では良い効果が出たのに、飲ませると効きが悪いなどいうことが出てきます。

体内動体を調べると、投与した量の一部しか吸収されないなどということも出るわけです。だいたいの目安として投与量の30%吸収されれば薬になるとされていますが、腸管吸収を上げる工夫が必要となるわけです。

こういった課題が出てくると我々は主に3種の方法で対応します。最初がこの候補化合物を化学変換することで、活性を保ちながら吸収が良い化合物を探索します。2番目が候補化合物にはならなかったが、ある程度の活性を持った化合物から吸収の良い化合物を探す方向です。

最後が、吸収を助けるような構造を付与して、これが体内に入った場合、主に肝臓で分解されてもとの候補化合物が出てくる、いわゆるプロドックという手法です。

実はこの課題はかなり難しいものであり、私の経験からいうと3回こういうケースになりましたが、1度しか成功していません。

もともと酵素や受容体にピッタリ結合するものを作っていますので、これを脂溶性を増加させる(腸管吸収には脂溶性が重要とされています)ような変換を行うと、当然活性が低下してしまうことが多くなります。

まあ何とかこういった問題がクリアできると、開発を行うかどうかの判断が本社開発グループを中心に検討されます。この辺りになると私はメンバーには入りますが、あまり関与することはなくなります。

これでGOとなると前臨床試験としての動物での安全性などの多数の実験が始まり、だいた4,5年かかります。このころには私は新たなテーマをスタートしていますので、途中経過の報告を受ける程度となります。

この前臨床試験がうまくいくといよいよ臨床試験となりますが、これに2,3年はかかりますので、私が実際何かすることはありません。

以上のように創薬研究の最初に関わっている我々は、手がけた薬が販売されるころには定年になっているというぐらい、時間と手間、費用がかかる仕事と言えます。

このシリーズではあまり強調しませんでしたが、テーマが決まってから目的とする効果が出る化合物を見つけることができるかは、ギャンブルといえます。

どんなに考えてデザイインしても効かなかったり、ついでに作った化合物がよく効いたりと偶然としか言いようがないのがこの世界です。したがってこういう研究には楽観性が重要で、その点私に向いていたのかもしれません。


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