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細菌によるフェノール合成法を開発

2018-07-05 10:40:48 | 化学
名古屋大学は、大腸菌の中にある酵素のスイッチをオンの状態にすることが可能な化学物質を開発し、ベンゼンを常温常圧の温和な条件でフェノールに変換する細菌を開発したと発表しました。

従来のクメン法では、ベンゼンからフェノールを合成するのに高温高圧の条件と多段階反応を必要としました。

今回開発した手法では、シトクロムP450BM3と呼ばれる酸化酵素を大腸菌に取り込み、大腸菌の培養液にベンゼンを添加するだけでフェノールに変換される、一段階かつ室温での反応が可能となりました。

また反応時間を調整することによって、フェノールがさらに酸化されたヒドロキノンが生成しました。

具体的な反応を見ると、長鎖脂肪酸を水酸化するシトクロムP450BM3を大腸菌に生合成し、擬似基質(デコイ因子)を反応溶液に添加することでベンゼンがフェノールに変換されました。5時間の反応でフェノールの収率は59%に達しました。ヒドロキノンは16%の収率で得られ、ベンゼンの転換効率は75%でした。

デコイ因子を利用する手法は、天然に存在する酵素をそのまま利用できる利点があります。そのため遺伝子操作で酵素自体を改変する必要がなく、同じ酵素の遺伝子を持つ細菌を用いて同様の反応を行うことも可能なようです。

こういった有機化合物の微生物変換というのは私も10年ほどテーマの一つにした得意な分野です。今回の成果はデコイ因子を利用するという面白いものですが、こういった反応には大きな欠点が存在します。

その一つが酵素というものの基本的な性質である、基質濃度を上げられないという点です。今回の実験ではどの程度のベンゼンを添加したかの記載がありませんが、多分培養液100mlに1ml程度と思われます。

また今回の生成物であるフェノールは殺菌作用がかなり強く、ある程度の濃度になると大腸菌を殺してしまうという問題もあります。今回の反応は酵素反応ですので、菌体が生きていなくても良いことになりますが、実際は酵素の再生など多くの問題が生じてしまいます。

こういった微生物を使って化学物質を作るということはいくつか成功例はありますが、いずれも付加価値の高い物質で、フェノールのような大量生産するものは難しいような気がします。今後研究グループがどうやってこの課題を解決していくのか、単なる研究で終わってしまうのかこれからの展開に期待したいところです。

今回の研究で私のやっていた酵素や微生物を利用した有機合成という仕事思い出しましたので、このブログでもその昔話を書いてみることにします。


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