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細菌界のモンスター「緑膿菌」のはなし

2022-03-22 10:26:26 | 健康・医療
私は30年近く薬の研究をしていましたが、一番のターゲットにしていたのが抗生物質などの抗菌剤でした。

その目標である病原菌の中でも最も厄介だったのが「緑膿菌」です。正式名はシュードモナス・エルギノーサですが、緑色の膿の原因となる細菌です。

この仲間はほとんどの人の体内に住み着いていますが、普段は全く増殖することなく「日和見菌」と呼ばれています。つまり健康なときには全く繁殖しないのですが、例えば火傷をしたりウイルスで免疫が弱ったりしするとおもむろに増殖をはじめ、いろいろな悪さをするのです。

この緑膿菌用の抗菌剤を開発するのが難しいのは、主に2つの原因があります。これは抗菌剤のメカニズムに関わるのですが、抗菌剤は細菌がいれば中に入って殺してしまうというものではありません。

細菌が増殖するときに細胞分裂を起こしますが、その時に分裂を阻害し殺してしまうという薬物がほとんどです。ところが緑膿菌はこの分裂速度が遅く、なかなかそのタイミングで抗菌剤が入ることが難しいのです。

もうひとつが緑膿菌の外側の細胞壁で、通常の大腸菌に比べて密になっており、薬剤の透過性が悪くなかなか細胞内に入りにくいという性質があります。こういったことから緑膿菌感染症、多くは高齢者の尿路疾患などですが、抗菌剤の効きが悪くなかなか完治しない病気となってしまいます。

また緑膿菌の細胞壁を通過する薬剤はあるのですが、これは腸管吸収ができない、つまり飲み薬ではなく注射薬になってしまうという欠点もあります。

さて大部分の細菌は酸素を用いずに増殖できる嫌気性菌ですが、緑膿菌は酸素が無くても生きられますが基本的には好気性菌に含まれます。したがって腸内はほとんど酸素がありませんので、この中に緑膿菌が入ることはほとんどありません。

ですから通常の状態では緑膿菌に感染するということは少ないはずですが、体内の好気性環境部位にはひっそりと緑膿菌が存在しているようです。細菌性の喉頭炎などで抗生物質を使うと、原因菌は排除できますが緑膿菌が残ってしまうということになります。

すると一旦は良くなったのどの痛みがまたぶり返し、なかなか治らないという現象が起きるのです。つまり菌の交代が起き緑膿菌感染症となってしまうわけです。

これはなかなか治りませんが、緑膿菌はそれほど強い菌ではありませんので、免疫力が回復すれば(若ければ)自然に治ってくることが多いようです。私はこの緑膿菌に飲んで効く抗菌剤の研究をかなりやったのですが、残念ながらそういった薬剤を見つけることはできませんでした。

残念ながら現在でもそういった薬は出ておらず、緑膿菌は細菌界のモンスターとしてひっそりと出番を待っていることには変わりがないようです。


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