対話とモノローグ

        弁証法のゆくえ

Zwei と Eins Zwei Drei

2011-01-30 | 弁証法

 Zweiという詩がある。「オイラーの公式」で検索していたら、「はまぐりの数学」の記事があり、そのなかに「NHKの学問爆笑で紹介されていた証明」が紹介されていた。Zweiは、脳科学者中田力教授が、高校生の時に書いた「ふたり」という詩である。読んでみる。(dx/dyを dy/dxに修正して引用しました。)

        Zwei

       y=cosx+isinx
     dy/dx=-sinx+icosx
   dy/dx・i=-(cosx+isinx)
   dy/dx・i=-y
    1/y・dy=-1/i・dx    (∵i=-1/i)
    ∫1/ydy=∫idx
      logy=ix+C
       x=0;y=1;C=0 
      logy=ix
       y=e^ix
∴cosx+isinx=e^ix

 cosxとisinxが様々なプロセス(微分・iとの積・自己反省・変数分離・積分・初期条件・指数対数関係)を経て、e^ixとしてみずからを発見する過程が描かれている。

 興味をもった。わたしはオイラーの公式だけでなく、タイトルにも惹かれた。オイラーの公式とZwei。わたしの試みと重なったのである。

 「懐疑論の核心 ―― Zwei」(前回の記事)で、わたしは、懐疑論の核心は Zwei(2)に見出せるのではないか考えた。そして、Zweiを否定的理性の働きではなく、否定的理性と肯定的理性の並列構造の働きとして位置づけることによって、ヘーゲルとは違った弁証法の構造を強調したのである。そして、Zwei(2)を、バイソシエーション(bisociation)のバイ(bi)や複素過程論(複合論)の「複」に対応させた。もちろんそれは「対話」の「対」(ペア)に重なるのである。

 複素過程論(複合論)は、弁証法の新しい考え方として提出しているものである。その具体的な一つの例としてわたしは「オイラーの公式」の形成過程を考えてきた。

 それゆえ、Zweiという詩は とても興味深く思えたのである。

 わたしも、Zwei という詩を作っていたことになる。「ひらがな弁証法」のことである。

                Zwei

        A =a+bi , A' =c+di

        A×A' =(a+bi)×(c+di)
                 ≒(a+di)×(c+bi)
                 =(ac-bd)+(ab+cd)i
                =x+yi
                =B

 この過程は、一般的で抽象的だが、オイラーの公式の形成過程と対応させると次のようになる。

 まず、A =a+bi,A' =c+di。A =a+biは、「虚数単位 i を用いた n 倍角の公式」である。これはド・モアブルの定理から導かれたものである。

        cosnz={(cosz+isinz)^n+(cosz-isinz)^n}/2
        sinnz ={(cosz+isinz)^n-(cosz-isinz)^n}/2i

  cosnzとsinnzの2つで1つである。

 また、A' =c+diは、「極限を使って定義された指数関数」である。

    e^x =lim(n→∞)(1+ x/n)^n         

 これが、最初の「ふたり」である。

 次に、A×A'=(a+bi)×(c+di)。ここから、オイラーの発想を構成していくことになる。

            c ←  bi +   a → di
            +       ↑   ↓      +
            bi←  c +   di → a

 この構造を媒介にして、「極限」と「虚数単位」が二重化される。すなわち、cosnzとsinnzの方に、これまでなかった極限が導入される。他方、e^x の方には、それまでなかった「虚数単位」が導入される。

 (a+di)×(c+bi)は、「n 倍角の公式への極限の導入と指数関数への虚数単位の導入」である。それは次の式で表わされる。

        cosx=lim(n→∞){(1+i・x/n)^n+(1-i・x/n)^n}/2     (1)
        sinx =lim(n→∞){(1+i・x/n)^n-(1-i・x/n)^n}/2i        (2) 

        e^ix =lim(n→∞)(1+i・ x/n)^n             (3)

 これが、次の「ふたり」である。

(ac-bd)+(ab+cd)i =x+yi =Bは、「ふたり」が「ひとつ」に結ばれる過程を表わしている。オイラーの公式の成立である。

 (1)と (2)に、(3)を代入することによって、次の関係が得られる。

     cosx=(e^ix+e^-ix)/2
         sinx =(e^ix-e^-ix)/2i

 これをe^ixについて解くと、よく知られたオイラーの公式になる。

        e^ix=cosx+isinx

 ひらがな弁証法(わたしの Zwei) を後退させ、オイラーの公式の形成過程だけを取り上げ、「Eins Zwei Drei」とタイトルをつけておこう。

      Eins Zwei Drei

     1 
      cosnz={(cosz+isinz)^n+(cosz-isinz)^n}/2
    sinnz ={(cosz+isinz)^n-(cosz-isinz)^n}/2i
    e^x  =lim(n→∞)(1+ x/n)^n

     2                    
      cosx=lim(n→∞){(1+i・x/n)^n+(1-i・x/n)^n}/2
    sinx =lim(n→∞){(1+i・x/n)^n-(1-i・x/n)^n}/2i
      e^ix =lim(n→∞)(1+i・ x/n)^n

     3
    cosx=(e^ix+e^-ix)/2
   sinx =(e^ix-e^-ix)/2i
      e^ix =cosx+isinx

   さて、この3連は詩として受け入れられるだろうか。

 注 

 わたしたちは、オイラーの公式の導き方に関して、『オイラーの無限解析』 (オイラー/高橋正仁訳 海鳴社 2001年)や『無限のなかの数学』(志賀浩二 岩波新書 1995年)を参考にしている(オイラーの公式と複合論)。「はまぐりの数学」の「オイラーの公式の発見」の記事も同じだと思う。