対話とモノローグ

        弁証法のゆくえ

等化点Eの問題点2 

2017-11-06 | 楕円幻想
プトレマイオスは、第1章「金星の遠地点の証明」で、4つの観測データから遠地点と近地点の位置を定めている。第2章「金星の周転円の大きさ」では、遠地点と近地点にある金星の2つのデータから周転円の半径と離心円の離心率を求めている。そして第3章「金星の離心率の割合」で、2つのデータから等化点を導入し「離心距離の二等分」を証明している。
第3章は次のように始まっている。「しかし周転円の等速運動が点Dのまわりに行われるかどうかは不確実であるから、平均太陽が遠地点から両側に90°の所にある場合に、反対方向にある二つの最大離角を考えた。」第2章で求めた離心円の中心Dが等速運動の中心とは限らないから、水平方向のデータ(山本のD7とD8)に着目する。
さきに「2つの観測データ」の記事で引用した第3章の冒頭部分の後、プトレマイオスは次のような図を提示し、次のように説明している。

(引用はじめ)
かくて遠地点と近地点とを通る離心円の直径をABGとし、点Aは金牛宮25°、点Bは黄道中心であると仮定しよう。そのまわりに周転円の等速運動が行われるような中心を見つけよう。この中心としてDをとり、観測に於けるが如く周転円の平均位置が遠地点から1/4円周だけ離れているように直線AG上へ垂線DEをとろう。観測に従って周転円の中心Eをこの垂線上にとり、Eのまわりに周転円を描き、点Bからそれへ切線BZとBHとを引こう。さらにBEとEZ、EHとを結ぶ。
(引用おわり)
たしかにエカントではなく、「そのまわりに周転円の等速運動が行われるような中心」である。記号はDで(第2章のDとは違う、2章のDはここではTになっている。引用者注)、Eではない。Eは平均太陽の中心である。想像された架空の円の中心という意味で、等化点というよりも「虚中心」と見るのがよいと思う。プトレマイオスにおいては、エカント(equant)の語源を考慮することなく、いいかえれば「等」にこだわらず、円の「中心」をそのまま活かせばいいのだと思う。とはいえ、「等」速運動が行われる中心なので、「等」化点も不適切ではない。

さて、プトレマイオスにあって山本義隆に欠けているものとは、観測データの位置AとEを架空の円上に配置し、弧AEが正確に1/4円周だけ離れているという仮定である。図において∠ADE=90°である。ADEは正確に4分円でAD=ED、ADとEDは半径で、円の中心はDである。しかも、このDはBT=DTを満たさなければならない。なぜなら、黄道中心(離心点)Bを起点にして運動する平均太陽を「対心」Dから見れば、遠地点Aの遅さと近地点Gの速さは、正確に近地点Aの速さと遠地点Gの遅さに映つる。どの地点でもこのような相殺が起こり、一様な速さで運動しているように見えるだろうからである。
これがプトレマイオスの仮定だった。Dは等化円の中心であると同時にBT=DTを満たさなければならない。プトレマイオスは等化点Dを導入し、「離心距離の二等分」(BT=DT)を証明する。

山本義隆は次のように述べていた。「問題は(その点すなわち)等化点Eを見いだすことであるが、それは次のようになされる」。しかし、言葉とは裏腹に、等化点の導入にはあまり関心を示していない。そして、「離心距離の二等分」の説明に関心を集中させているようにみえる。それは図に表れているといえるだろう。

プトレマイオスの図の4分円ADEと対応するのはAEQである。しかし、弧AQが1/4円周という意識が薄いので、プトレマイオスの図に比べて4分円は扁平な形になっている。これに対して「離心距離の二等分」を証明する部分が拡大している。
「直線EQは長軸線ABに直交している」という指摘だけでは不十分である。EA=EQ(半径)であり、AEQは正確な4分円であるという指摘が必要である。それに加えて、「離心距離の二等分」は仮定されたもので、その仮定を検証するという姿勢を読み取ることが必要だと思われる。

これは本文で、付記に言及した後、次のように述べていることと関連しているだろう。「この結果は FE =2 FC (上の図のTE=2TCのこと、引用者注)、すなわち離心点Fと等化点Eの中点に誘導円の中心Cがあることを示している。この著しい事実は「離心距離の二等分」と呼ばれる。この事実はここでは仮定されたのではなく、導かれたものであることに注意。」しかし、ここ(金星)でも(他の惑星では仮定している)、「離心距離の二等分」はあくまでも仮定であって、最大離角のデータを使って検証しているというべきだろう。

『アルマゲスト』第10巻第3章には2つの焦点があるといえよう。1つは等化点の導入、もう1つは「離心距離の二等分」の証明である。プトレマイオスは2つの焦点を見据えている。しかし、山本義隆は「離心距離の二等分」にだけ焦点を絞っているように見える。

参考文献
『世界の見方の転換』1(山本義隆著、みすず書房、2014)
『アルマゲスト』(プトレマイオス著、薮内清訳、恒星社厚生閣、1982)