ケプラーは点Zを捨て、点Mを選ぶことによって楕円に到達する。エイトンはケプラーが点Mを選んだ理由として、太陽への距離が等しく、2点が極めて近くにあり、火星の秤動の及ぶ範囲にあったことを挙げている。
(引用はじめ)
観測値との誤差は5分にまで達してしまった。そこでケプラーはこの「頬の道」(注)を捨てなければならなかった。彼のジレンマはこうである。「頬の道」は正しい距離を与えるが、アノマリは不正確である。一方、楕円は正しいアノマリを与えるが、磁気振動理論という物理的な説明を与えることができるのは「頬の道」だけである。ところが、惑星をMに置くこともできたのだと気づいたとき、ケプラーの眼前が急に明るくなった。というのは、この移動は小さいので、直径距離法則と磁気振動理論とのどちらをも保持できるからであった。このようにして作りだされた曲線が、まさしく、正確なアノマリを与える楕円であった。それゆえこの楕円は、距離とアノマリの両方を表わして、しかも物理的説明を与えもした。(『円から楕円へ』エイトン著、渡辺正雄監訳、1983、共立出版)
(引用おわり)
都築正信はこの見解に疑問を呈している(「ケプラーの火星楕円軌道について」)。「説明は極めてわかりにくい。火星がもつ磁石に似た物理的な力、これはケプラーの想像でしかないのだが、これを幾何学的方法によって根拠づけようとするところに難しさの原因があるのではないか」と。
離心円からの逸脱に、ケプラーは物理的な力を想定し理論を構成したが、すべて空論である。「磁気振動理論という物理的な説明を与えることができるのは「頬の道」だけ」というのは何の意味もないと思う。Mの選択に物理的な力は無関係である。
ケプラーの意識的な選択ではなく、無意識のうちに行われた選択を読み取る必要がある。
(注)点Zが作る軌道、『新天文学』では豊頬形と呼ばれている。
(引用はじめ)
観測値との誤差は5分にまで達してしまった。そこでケプラーはこの「頬の道」(注)を捨てなければならなかった。彼のジレンマはこうである。「頬の道」は正しい距離を与えるが、アノマリは不正確である。一方、楕円は正しいアノマリを与えるが、磁気振動理論という物理的な説明を与えることができるのは「頬の道」だけである。ところが、惑星をMに置くこともできたのだと気づいたとき、ケプラーの眼前が急に明るくなった。というのは、この移動は小さいので、直径距離法則と磁気振動理論とのどちらをも保持できるからであった。このようにして作りだされた曲線が、まさしく、正確なアノマリを与える楕円であった。それゆえこの楕円は、距離とアノマリの両方を表わして、しかも物理的説明を与えもした。(『円から楕円へ』エイトン著、渡辺正雄監訳、1983、共立出版)
(引用おわり)
都築正信はこの見解に疑問を呈している(「ケプラーの火星楕円軌道について」)。「説明は極めてわかりにくい。火星がもつ磁石に似た物理的な力、これはケプラーの想像でしかないのだが、これを幾何学的方法によって根拠づけようとするところに難しさの原因があるのではないか」と。
離心円からの逸脱に、ケプラーは物理的な力を想定し理論を構成したが、すべて空論である。「磁気振動理論という物理的な説明を与えることができるのは「頬の道」だけ」というのは何の意味もないと思う。Mの選択に物理的な力は無関係である。
ケプラーの意識的な選択ではなく、無意識のうちに行われた選択を読み取る必要がある。
(注)点Zが作る軌道、『新天文学』では豊頬形と呼ばれている。