対話とモノローグ

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数学的帰納法、高校生の誤解

2018-12-17 | パスカルの三角形
数学的帰納法を学ぶ高校生のなかには、これで証明になっているのかと疑問をもつ者がいる。この疑問は数学的帰納法の誤解から生じているが、誤解を取り上げその原因を示している本があった。1つは新井紀子『数学は言葉』(東京図書、2009年)、もう1つは瀬山士郎『なっとくする数学の証明』(講談社、2013年)である。
1『数学は言葉』
数学的帰納法は次のような命題としてまとめられている。
〈数学的帰納法〉
自然数nに関する性質Q(n)について、次の2つのことが示されたとする。
1.Q(1)が正しい。
2.任意の自然数kについて、Q(k)が正しいと仮定すると、Q(k+1)が正しい。
このとき、任意の自然数nについて、Q(n)が正しい。
これに対する高校生の疑問は次のようなものである。
「任意の自然数kについて、Q(k)が正しいと仮定する」ならば、「任意の自然数nについて、Q(n)が正しい」は決まっている。なぜこれで証明になっているのだろう。
新井紀子は数学的帰納法を数文に訳す。
 (Q(1)∧∀k(Q(k) → Q(k+1))) → ∀nQ(n)
そして、次のように指摘する。
(引用はじめ)
仮定に登場する量子化∀は、Q(k)だけにかかっているのではなく、(Q(k)→Q(k+1))全体にかかっていることがわかります。「任意の自然数kについて、Q(k)が正しいと仮定」しているのではなく、「任意の自然数kについて、Q(k)→Q(k+1)が正しいと仮定」しているのです。ここを誤読しないようにしましょう。
(引用おわり)
2『なっとくする数学の証明』
疑問は次のようである。
もう1つ、高校生の疑問に答えておきます。数学的帰納法で、「P(k)が正しいと仮定すればP(k+1)が正しい」の部分です。一般のkについてP(k)が正しいと仮定するなら、なにもP(n)が正しいことを証明する必要がないのではないかという疑問です。
これに対して、瀬山士郎は新井紀子とは違った角度から次のように注意している。
(引用はじめ)
このkは一般のnではありません。仮定しているのは、k以下の自然数nについて命題P(n)が成り立つということで、kより大きな自然数については命題が成り立つかどうかわからない。しかし、kまで仮定すれば、もう一つ大きなk+1まで命題が成り立つことが分かるという意味です。ですから、帰納法の第2ステップを、
 (2) k以下のnについて、P(n)が正しいと仮定するとP(k+1)も正しいことを証明する。
と表現すると分かりやすいのだと思います。ですが、普通はこれを
 (2) P(k)が正しいと仮定するとP(k+1)も正しいことを証明する。
と表現するのです。
(引用おわり)
両者の高校生に対するアドバイスはどちらも正しいと思われるが、その説明の違いには、数学的帰納法のバージョンの違いが背景にあるようだ。
これを見ておこう。