離心円から切り取る三日月形の幅を429と見定める前は、この幅の2倍の858を想定していた。858から429への過程を確認しておこう。
ケプラーが最初に仮定したのは離心円から三日月形を切り取ってできる卵形軌道だった。この卵形曲線は難しく、ケプラーは楕円を代替手段として用いた。まず、ここで必要な楕円の基礎を2つだけ確認しておこう。長軸a、短軸b、離心距離eとすると、b2=a2-(ea) 2 、あるいはb=√(1-e2)a。また楕円の面積はS=πab。
離心円の面積 : 楕円の面積=πa2 : π ab=a : b
したがって、両側の三日月の面積はa-bである。
ゆえに、離心円の面積 : 両側の三日月の面積=a : a-b
ケプラーはこの比a : a-bを、長軸aと離心率eを用いて、
a : a-b=a2 : (ea)2
と近似した。このときの誤差は
真アノマリアαの計算値が、離心アノマリアβ=45°に対して8分不足、β=135°に対して8分過剰となった。つまり、円軌道と仮定したときとちょうど逆の関係になっていた。
図を示そう。

内側の曲線HOGIは楕円で代用した卵形曲線である。外側の曲線HCEIは離心円である。また、真ん中の曲線HMFIはチィコ・ブラエの観測値(求める火星軌道)である。近似楕円がβ=45°に対して8分不足というのは、図で∠OAHが∠MAHより8分小さいことである。円軌道と仮定したときは∠CAHが∠MAHより8分大きかった。内側と外側で逆の関係を示したのである。(∠MBH=β=45°。135°のときは省略)
それゆえ、ケプラーは、真理はその中間にあると考える。1605年10月ファブリキウスへの手紙。(山本義隆『世界の見方の転換3』より)
(引用はじめ)
完全な離心円を用いることで求められた〔太陽―火星間の〕距離が、私が以前にあなたにお話しした私の楕円(それは卵形とほとんど差がありませんが)における場合の不足分とおなじだけ過剰であることを知ったとき、私はまったく正当にも次のように考えることができました。円と楕円はおなじ図形の種からのものであり、それが逆向きにおなじだけ誤っているのですから、真理はその中間にあります。そして楕円のあいだにあるのは楕円に限られます。したがって火星の軌道はたしかにもとの楕円における三日月の幅の半分の幅の三日月の楕円であります。ところでその〔もとの楕円の〕三日月の幅は100000にたいして858であります。したがって、平均距離の位置において求めた完全な円の距離の減少は429〔=858÷2〕の幅でなければなりません。これこそが正解といえます。
(引用おわり)
さて、離心円の面積 : 両側の三日月の面積の比=a : a-bにもどってみよう。
これを計算してみると、
a-b=a-√(1-e2)a
√(1-e2)aは、e2までとる近似で(1-e2/2)aだから、
a-b=a-√(1-e2)a
=(1-e2/2)a
=e2/2・a
これが正しく楕円の幾何を適用したときの三日月の幅である。
ケプラーは計算違いをしていたことになる。b=√(1-e2)aとすべきところを、b=(1-e2)aとして、
a-b=a-(1-e2)a
=e2・a
とやっていたことになる(山本義隆『世界の見方の転換3』第12章14楕円軌道への道、参照)。
そして、まちがいに気づかないまま、2倍の大きさの幅EGを求め、観測値との違いから、その幅を半分EFにした。そして、正しい幅にたどり着いたことになる。
円(b=a)と近似楕円(b=(1-e2)a)の中間に、正しい楕円(b=(1-e2/2)aを位置づけた。
(注)火星の離心率0.09265を入れて計算すると、e2=0.00858、e2/2=0.00429である。
ケプラーが最初に仮定したのは離心円から三日月形を切り取ってできる卵形軌道だった。この卵形曲線は難しく、ケプラーは楕円を代替手段として用いた。まず、ここで必要な楕円の基礎を2つだけ確認しておこう。長軸a、短軸b、離心距離eとすると、b2=a2-(ea) 2 、あるいはb=√(1-e2)a。また楕円の面積はS=πab。
離心円の面積 : 楕円の面積=πa2 : π ab=a : b
したがって、両側の三日月の面積はa-bである。
ゆえに、離心円の面積 : 両側の三日月の面積=a : a-b
ケプラーはこの比a : a-bを、長軸aと離心率eを用いて、
a : a-b=a2 : (ea)2
と近似した。このときの誤差は
真アノマリアαの計算値が、離心アノマリアβ=45°に対して8分不足、β=135°に対して8分過剰となった。つまり、円軌道と仮定したときとちょうど逆の関係になっていた。
図を示そう。
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内側の曲線HOGIは楕円で代用した卵形曲線である。外側の曲線HCEIは離心円である。また、真ん中の曲線HMFIはチィコ・ブラエの観測値(求める火星軌道)である。近似楕円がβ=45°に対して8分不足というのは、図で∠OAHが∠MAHより8分小さいことである。円軌道と仮定したときは∠CAHが∠MAHより8分大きかった。内側と外側で逆の関係を示したのである。(∠MBH=β=45°。135°のときは省略)
それゆえ、ケプラーは、真理はその中間にあると考える。1605年10月ファブリキウスへの手紙。(山本義隆『世界の見方の転換3』より)
(引用はじめ)
完全な離心円を用いることで求められた〔太陽―火星間の〕距離が、私が以前にあなたにお話しした私の楕円(それは卵形とほとんど差がありませんが)における場合の不足分とおなじだけ過剰であることを知ったとき、私はまったく正当にも次のように考えることができました。円と楕円はおなじ図形の種からのものであり、それが逆向きにおなじだけ誤っているのですから、真理はその中間にあります。そして楕円のあいだにあるのは楕円に限られます。したがって火星の軌道はたしかにもとの楕円における三日月の幅の半分の幅の三日月の楕円であります。ところでその〔もとの楕円の〕三日月の幅は100000にたいして858であります。したがって、平均距離の位置において求めた完全な円の距離の減少は429〔=858÷2〕の幅でなければなりません。これこそが正解といえます。
(引用おわり)
さて、離心円の面積 : 両側の三日月の面積の比=a : a-bにもどってみよう。
これを計算してみると、
a-b=a-√(1-e2)a
√(1-e2)aは、e2までとる近似で(1-e2/2)aだから、
a-b=a-√(1-e2)a
=(1-e2/2)a
=e2/2・a
これが正しく楕円の幾何を適用したときの三日月の幅である。
ケプラーは計算違いをしていたことになる。b=√(1-e2)aとすべきところを、b=(1-e2)aとして、
a-b=a-(1-e2)a
=e2・a
とやっていたことになる(山本義隆『世界の見方の転換3』第12章14楕円軌道への道、参照)。
そして、まちがいに気づかないまま、2倍の大きさの幅EGを求め、観測値との違いから、その幅を半分EFにした。そして、正しい幅にたどり着いたことになる。
円(b=a)と近似楕円(b=(1-e2)a)の中間に、正しい楕円(b=(1-e2/2)aを位置づけた。
(注)火星の離心率0.09265を入れて計算すると、e2=0.00858、e2/2=0.00429である。