対話とモノローグ

        弁証法のゆくえ

エイトンと山本義隆を読み比べる3

2019-09-17 | 楕円幻想
ケプラーが一般的な結論を下したときの訳注に次のようにある。
(引用はじめ)
注040
このケプラーのことばに従うと、左の図で離心アノマリアβに属する距離はMS=rではなくて、MB=rcosφ=1+ecosβ(ただしMO=1、e=OSは離心値)ということになる。この数式が楕円に関する関数に見られることは言うまでもない。すなわち、この時点でケプラーはすでに軌道が楕円であることを明らかにしているはずだが、ケプラー自身はまだそのことに気づいていない。注059参照。

(引用おわり)
図の記号を補足しておこう。P1は遠日点、P2は近日点である。Mは火星(惑星)、Qはエカントの点、Oは離心円の中心、Sは太陽である。アノマリアとは遠日点を基準とする角度で、αは平均アノマリア、βは離心アノマリア、υは真アノマリアである。∠QMSを均差といい、物理的均差Ψと視覚的均差φからなる。均差は平均アノマリアαと真アノマリアυの差、また視覚的均差φは離心アノマリアβと真アノマリアυの差である。
注059(これは第59章にある)も見ておこう。
(引用はじめ)
注059
直径距離(もしくは直径上の距離)とは、注040の図で、太陽から惑星までの距離rを対応する円の直径上に投影したもので、いま視覚的均差をφとすれば、rcosφになる。ところが楕円に対応する円の半径を1とし、離心アノマリアをβとすれば、これは1+ecosβの形に書き表せる。そしてこれが後で述べるように、まさに楕円軌道上にある惑星の太陽からの距離にほかならない。したがって、すでに先の注で述べたように、ケプラーはこの式に相当するもの出してきた第56章で楕円軌道を発見していたことになる。
(引用おわり)
このように読んでくると、エイトンの要約、ケプラーの第56章の本文、岸本良彦の訳注は整合していることがわかる。円周距離を直径距離に置き換えることによって、ケプラーが楕円軌道を発見した(火星-太陽間の正しい距離を求めた)という認識が共通している。また、視覚的均差は離心円上の角度であり、その最大の大きさ5°18′は∠HENを指すことも自然に導かれると思われる。

視覚的均差が円周距離と直径距離を関連させていて、その最大の大きさ5°18′の正割(100429)が、円周距離(100429)の代わりに直径距離(100000)を用いることを気づかせてくれたことも納得できる。たしかに、それが円軌道から楕円軌道への端緒(「目覚め」)になっていたのである。

しかし、山本義隆は5°18′を∠HBNとし、さらに円周距離(ENとKN)を消去した楕円軌道発見の図を掲げている。記号の違いはあるが、同じ円と楕円と見ていいだろう。(『世界の見方の転換3』)

これは和訳された『新天文学』(ラテン語から翻訳された)を読むかぎりありえない展開である。ここに和訳を利用できなかった影響が出ていると思われる。山本義隆は独訳と英訳の『新天文学』を併用していた。これらはラテン語(和訳)と同じ内容のはずである。しかし、違う内容が書かれているかのようなのだ。山本義隆の読み方はエイトンとは違っている。エイトンが正しいのだから、山本義隆が誤っているのである。山本義隆は第56章を正しく読み解いていないと思う。

山本義隆の「直径距離の法則」を取り上げよう。

(つづく)