1年ほど前、特殊相対性理論の形成過程と複合論(新しい弁証法の理論)は相性がいいのではないかと思い、参考になりそうな文献を読みはじめた。
読みすすめていくうちに、これまで挙げてきた複合論の例よりも、わかりやすく展開できるのではないかと思うようになった。アインシュタインを通して、これのまで議論を見直し、発展させてみようと思った。
双子のパラドックスは、相対性理論において、運動系の時計の遅れに関して提出されたパラドックスである。それはアインシュタインの時計のパラドックスを1911年にポール・ランジュバンが双子をモデルに仕立てたものだという。次のようなものである。
双子の兄弟がいる。兄は光速に近いロケットで宇宙旅行に出かけ再び地球にもどってくる。弟は地球にとどまっている。弟から見ると、兄が運動系にいるため、兄の時間が遅れているように見える。すなわち、兄が地球にもどったとき、兄の方が弟より若い。一方、運動が相対的であることを考えると、兄から見れば、弟の方が運動系にあるため、弟の時間が遅れているように見える。すなわち、双子が再会したとき、弟の方が兄より若い。弟から見るときと兄から見るときとでは、結果が逆になっている。
しかし、ここでタイトルとして提示する「双子のパラドックス」は、このような運動系における時計の遅れに関するものではない。わたしは、この「双子のパラドックス」ということばを借りて、弁証法の新しい理論を展開してみたいと思うのである。
弁証法は、現代ではヘーゲル・マルクス主義の考え方が主流である。しかし、歴史的に見ると、さまざまな立場があり、今日の主流の考え方は、たかだがこの150年ほどのもので、きわめて制約されたものだと思う。
わたしの試みは、「弁証法」の語源である「ディアレクティケー」の可能性を探究していると言えると思う。これまで展開してきた複合論を特殊相対性理論の形成過程を通して見直してみたいのである。
さて、わたしは「双子のパラドックス」に、運動系の時間の遅れではなく、違った内容を盛り込もうと考えている。それは、アインシュタインが1905年の論文で提示した2つの原理、すなわち、(特殊)相対性原理と光速度一定の原理のことである。
わたしはこの2つの原理を「双子」と見る。しかも、この「双子」は、ガリレオの相対性原理とマクスウェルの方程式のなかの光速度の一定性という別の「双子」によって「混成」された「双子」とみるのである。
「双子」は、わたしが提起している弁証法の新しい理論の核心にあるものである。
相対性原理と光速度一定の原理を、双子と呼ぶのは、わたしが初めてだと思う。しかし、2つの原理をパラドックスと呼ぶのは、わたしが初めてではない。2つの原理とパラドックスと関連させたのは、アインシュタイン本人である。『特殊および一般「相対性理論」について』(金子務訳)に、次のようにある。
さて、前述のバラドックスはこう表現できる。古典力学で使用される、一つの慣性系から他の慣性系へ移る場合の事象の空間座標と時間の結合規則に従えば、二つの仮定
一、光速度の不変性
二、法則(特に光速度不変の法則)は、慣性系の選び方とは無関係であること(特殊相対性原理)
は、(両方ともそれぞれ経験によって支持されているのにもかかわらず)たがいに両立しえないものなのだ、と。
「双子のパラドックス」ということばの指示する内容を、運動系の時間の遅れから、特殊相対性理論の核心である2つの原理へと変える。これを基礎に新しい弁証法の理論を展開したいと思う。
2008年に書いた相対性理論に関する記事を「双子のパラドックス――弁証法1905(Ⅰ)」として 、まとめた。
「表出論のゆくえ2008」 「1905年における光の粒子性と波動性について」(試論14)と重なっているが、「時間の同調の定義と偏微分方程式について 」が入っている。 また、これまで「熱力学か、電磁気学か」で割愛していた写真(「自伝ノート」に対する訂正)をいれている。
「双子のパラドックス――弁証法1905 」というタイトルは1年前に浮かんできたものである。このタイトルのもとで、相対性理論の形成過程の把握と弁証法の理論の見直しをやろうと思ってきた。今回はその第一声である。
「双子のパラドックス」ということばから「宇宙旅行」ではなく、「相対性原理と光速度一定の原理」が連想されるようになる。そして、それが「弁証法」と結びつく。そんな日が来ればいいなあと思う。わたしの夢である。
目次は、次のようになっている。
目次
はしがき
1 内的類似性の拡張
2 時間の同調の定義と偏微分方程式について
3 熱力学か、電磁気学か
4 相対性理論の形成と武谷三段階論
5 アインシュタインの思考モデルと2つの基準
6 2つの基準の包摂
7 表出のなかの悟性と理性
8 「論理的なもの」とアインシュタインの認識論
9 弁証法の場
10 1905年における光の粒子性と波動性について
11 表出論のゆくえ
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