ウィキペディア(Wikipedia)に「許萬元」を投稿した。許萬元の弁証法の理論を中立的に次の6つの観点でまとめたものである。
1 弁証法の三大特色
2 弁証法の二大機能
3 矛盾論
4 ヘーゲルとマルクスの弁証法の違い
5 即かつ対自的考察法
6 概念の自己運動
ウィキペディアの記事を見ていくうちに、許萬元が高く評価されているのを知った。
「ヘーゲル」の「主な著作」には、ヘーゲル論理学の研究の代表的なものとして、マルクスとエンゲルスの著作(『資本論』『反デューリング論』『自然弁証法』)、レーニンの『哲学ノート』についで、許萬元の三部作(『ヘーゲルにおける現実性と概念的把握の論理』『ヘーゲル弁証法の本質』『認識論としての弁証法』)があげられている。このようなレベルにあるのかもしれない。次のようなコメントが付けられている。
ヘーゲルとマルクスとエンゲルスとレーニンの弁証法の学説史的研究として不朽の名著です。これを越えるものは今後も現れないでしょう。というのは、それほど本書が徹底的だということでもありますが、同時に、ヘーゲルの理解のためにはマルクス主義を通る必要がありますが、社会主義の失敗以降、マルクス主義の哲学を理解しようとする努力が見られなくなったからです。
しかし、他方で、コメントは次のように続き、許萬元の限界も指摘している。
許萬元の弁証法研究の意義と限界を好くまとめたものが牧野紀之の「サラリーマン弁証法の本質」(『哲学夜話』鶏鳴出版に所収)です。実際、許萬元のヘーゲル研究は深いものですが、結局は学説史的研究で(あ)り、用語もヘーゲルやマルクスのままですから、「内容はあるようだけれどこの叙述では分からない」という感想を皆が持つのです。
「サラリーマン弁証法の本質」を読んでいないので、どのような意義と限界が指摘されているのか知らない。「学説史的研究」が意義で、「内容はあるようだけれどこの叙述では分からない」というのが限界なのだろうか。
わたしの「叙述」が、許萬元の弁証法の「内容」の理解に役立つなら幸いである。
わたしなりに、許萬元の弁証法研究の意義と限界を、まとめておこう。
許萬元の研究は学説史的研究ではない。許萬元は、ひたすら弁証法の本質論を探究したのだと思う。古典からの引用は圧倒的だが、これは、停滞した弁証法研究の現状(盲目的な例証主義、空虚な図式)を打破するのに必要だったというにすぎないと思われる。
私があえて弁証法の本質論を問題にしたのは、ふつう、弁証法研究といえば、個々の諸法則が公式的にとり出され、その公式にふさわしい実例を諸科学から見出すことであるかのように見なす風潮がかなり見受けられ、そうした弁証法にたいする断片的な現象論的理解から「弁証法の本質」を区別する必要がある、と考えたからであった。(中略)そこで私は、弁証法の創始者であるヘーゲルにまで遡って、弁証法を構成するもっとも本質的な契機を明らかにし、それらの連関を追求したのである。それによってはじめて、弁証法におけるヘーゲルとマルクスとの本質的差異の問題も、逆に明白になってくるのである。こうした弁証法の本質論の研究は、弁証法の諸法則(レーニンのいう「弁証法の諸要素」)を正しく理解するための理論的拠点ともなるであろう。(『弁証法の理論』)
許萬元が弁証法の本質論を探究したことは、『弁証法の理論』の目次を見てもわかるのではないだろうか。学説史は主になっていないと思う。目次は、編、章、節まであるが、編だけ示せば、次のようである。
上 ヘーゲル弁証法の本質
第1編 ヘーゲル哲学とその唯物論的読解の可能性
第2編 ヘーゲル弁証法の三大特色とその根拠
第3編 マルクス弁証法の本質 ヘーゲル弁証法との差異について
下 認識論としての弁証法
第4編 哲学におけるレーニンの問題提起
第5編 弁証法の存在論的性格
第6編 弁証法の認識論的意義
わたしが許萬元の弁証法研究の意義と考えるのは、ヘーゲルまで遡り、内在主義と歴史主義と総体主義を抽出して、それを「論理的なものの三側面」と関係づけたことである。
これに対して、その限界とは、ヘーゲルまでしか遡らず、「論理的なものの三側面」の規定にとどまったことである。
これが、わたしが考えている許萬元の弁証法研究の意義と限界である。
許萬元の弁証法の「限界」を「制限」と捉えて、ヘーゲル弁証法の合理的核心を捉えようと試みているのが、「弁証法試論」である。
さて、ウィキペディアにどうやって記事を書くのかを調べているとき、青リンクと赤リンクというシステムに興味をもった。青リンクは、ウィキペディアにその項目の記事があるもの、赤リンクは記事がないものである。「許萬元」の記事では、弁証法、ヘーゲル、マルクス、レーニンなどは青リンクである。見田石介、松村一人、武市建人は赤リンクである。
「ヘーゲル」の「主な著作」にあった「許萬元」は赤リンクだった。わたしはそれをクリックして、記事を書いた。投稿したので、「許萬元」は青リンクに変わった。
投稿したのは昨日の昼頃だったが夜見てみると、生い立ちがあり、「弁証法」と「著作」の見出しが追加され、たいへん読みやすくなっている。また、カテゴリに「日本の哲学者」とある。こんなふうに、これからも「許萬元」が拡張していけばいいなあと思う。
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