陳情令46話。
すべてが
腑に落ちた瞬間だった。
なぜ魏無羨が頑なに
剣を佩こうとしなかったのか。
霊力がなければ
自分の霊剣を持つことさえつらい。
今まで出来たことが
霊力が無くなることで出来なくなる。
御剣の術もそうだ。
霊力がなければ
ただの人になってしまうのだ。
そして彼が選んだのは詭道だった。
江澄に自分の霊力の源
金丹を渡したために。
魏無羨はもう剣を持つことが
出来なくなったのだから。
どうして
それに気づかなかったのか?
ありえない事と思えば
その選択肢には辿り着けない。
そして魏無羨は巧みだった。
気づかれないように
細心の注意を払っていたから。
温寧にもきつく口止めをして。
江澄の中の金丹は
魏無羨のものだった。
では今までどれほど苦しみを
彼は抱えていたのか?
知らなかったとは言え
きっと自分はずっと
魏嬰を苦しめていた…。
彼への愛おしさと
自分への怒りと共に
藍忘機は魏無羨を抱えて
その場を去る。
江澄を守るため、この選択しか
残っていなかった彼を
もうこれ以上
傷つけさせたくない。
一刻もここから離れたいと。
藍忘機と魏無羨が去った後も
温寧の言葉に
江澄も絶句し、衝撃を受けていた。
泣きながらその場に凍り付いて
動けなくなっていた。
蓮花塢を離れる小舟の上。
温寧に金丹を体から取り出すのは
痛いかどうかを聞く藍忘機。
温寧は
『痛くない、と言っても
信じないでしょう?』
と。
その通りだった。
彼は誰にも言わず、
独り苦しんでここまで来たのだ。
魏嬰が目を覚まし、
小舟の上で揺られる三人。
少しまだ
朦朧としている魏嬰は
師姉の幻を見る。
懐かしさに涙して、
気を取り直す魏嬰。
そして、
『お腹すいた。』と
いつもの魏嬰に。
小舟の周りには
丁度旬のハスの実がたくさんある。
藍湛と約束したのを思い出す。
ハスの房を
『はい!』
と、藍湛と温寧に渡し
食べ始める魏嬰。
しかし、
『魏嬰、ここ一帯には持ち主がいるのでは?』
と藍湛。
『・・・。』
魏嬰と温寧は絶句して
食べるのを止める。
それを見た藍湛は突然
小舟の横にあったハスの房をちぎり
魏嬰に渡す。
『え?』
と、驚く魏嬰が
温寧と顔を見合わせる。
魏嬰を16年前に失ったあと、
彼を忘れられず
雲深不知処で
ここの話をしていたのを思い出し、
一人此処には来たことがある。
藍湛はこの湖の持ち主の事も
知っている。
魏嬰が蘇って
いま共に此処にいる自分。
藍湛にはそれが
何物にも代えがたい幸運で
魏嬰が傍にいる事が
ただ、本当に、
嬉しかった。
叶うはずのなかった願い。
それが今、
叶ったのだから。