グローバル経済の迷宮 海外工場の事件簿⑦ 日本で進む製造業空洞化
海外工場の人権侵害は、日本人にとって対岸の火事ではありません。ヒューマンライツ・ナウの伊藤和子事務局長は話します。
「海外で労働者が経済的に搾取されてぼろ雑巾のように扱われている―。この状況を容認すると、日本人も労働者として買いたたかれます。グローバル企業は下請け業者を国際的に競わせ、低価格での生産を追求するからです。日本で生産するのが割高なら、割安なところへ移るのです」
多国籍企業のグローバル・サプライチェーン(国際供給網)に組み込まれる労働者は世界中で増え続けています。国際労働機関(ILO)の推計では2013年に4億5300万人にのぼります。1995年と比べて1億5700万人(53%)増えました。
多くの国が多国籍企業の資金を呼び込むために労働条件の規制緩和を競っています。典型的な方法が輸出加工区の設定です。地域限定で法律や規制をゆるめ、外資を引き寄せる「特別の誘因」を提供する仕組みです。ILOが説明しています。
「輸出加工区では、長時間の労働と、結社の自由の組織的な侵害が行われているという報告がある」「もっばら労働者の低賃金に頼って競争上の優位を保つ輸出加工区もある」「これは『底辺への競争』と呼ばれる」(16年の報告書)
ヒューマンライツ・ナウの伊藤和子事務局長
全労連の布施恵輔国際局長
賃金半分に減少
途上国と比較して賃金が高く労働時間の短い先進国では、製造業が空洞化しています。
最も深刻なのは米国です。米国の国内総生産(GDP)に占める主要産業の付加価値の割合をみると、製造業は27%(1950年)から12%(2016年)へと半減しています。同時期に増えたのは、サービス産業(11→27%)や金融・保険・不動産業(11→21%)です。
全労連の布施恵輔国際局長はいいます。
「製造業が海外に移転して、残った職は賃金が半分以下の配達やピザの宅配。年収が200万円台になってしまう。そういう現実がアメリカ国民に重くのしかかっています」
日本も例外ではありません。特に著しいのが繊維産業の空洞化です。従業員数は114万9千人(1985年)から26万8千人(2014年)へと、4分の1以下に激減しました。(グラフ)
15年には、衣類の国内供給量のうち97%が輸入品でした。いま日本人が身に着ける衣類のほとんどは外国製品という状況です。
拡大する逆輸入
電機産業でも生産の海外移転は進んでいます。経済産業省が「ものづくり白書」で危ぐしています。
14年版白書によると、輸送用機器(車など)と電気機器(テレビなど)と一般機械(パソコンなど)は従来、「輸出の三本柱」でした。ところがテレビやパソコンは「海外の生産拠点からの逆輸入が拡大している」といいます。日本企業が日本市場向けに、海外で生産しているのです。貿易黒字が縮小し、パソコンなど電算機類は1・6兆円もの貿易赤字(13年)となりました。
13年版白書は次のように嘆いています。
「わが国企業が高いシェアを有していた分野での輸入製品の浸透という変化が少しずつ起きている。冷蔵庫や洗濯機といった生活家電製品の分野では、円高に伴う生産の海外移管や国内への逆輸入の増加により、製品ごとの貿易収支が90年代以降、相次いで輸入超過(貿易赤字)へと転じている」
伊藤さんはいいます。「世界のどこかで起きている犠牲を容認すれば、自分たちの首を絞めることになるのが現代社会です。国境を超えて海外の労働者とつながり、共に人間らしく生きる道を探すべきではないでしょうか」
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2017年6月22日付掲載
フラッシュメモリやパソコンなどは、海外生産が進んでいますものね。ヒューレット・パッカードの様に東京生産にこだわっているのは珍しい方かな。
海外工場の人権侵害は、日本人にとって対岸の火事ではありません。ヒューマンライツ・ナウの伊藤和子事務局長は話します。
「海外で労働者が経済的に搾取されてぼろ雑巾のように扱われている―。この状況を容認すると、日本人も労働者として買いたたかれます。グローバル企業は下請け業者を国際的に競わせ、低価格での生産を追求するからです。日本で生産するのが割高なら、割安なところへ移るのです」
多国籍企業のグローバル・サプライチェーン(国際供給網)に組み込まれる労働者は世界中で増え続けています。国際労働機関(ILO)の推計では2013年に4億5300万人にのぼります。1995年と比べて1億5700万人(53%)増えました。
多くの国が多国籍企業の資金を呼び込むために労働条件の規制緩和を競っています。典型的な方法が輸出加工区の設定です。地域限定で法律や規制をゆるめ、外資を引き寄せる「特別の誘因」を提供する仕組みです。ILOが説明しています。
「輸出加工区では、長時間の労働と、結社の自由の組織的な侵害が行われているという報告がある」「もっばら労働者の低賃金に頼って競争上の優位を保つ輸出加工区もある」「これは『底辺への競争』と呼ばれる」(16年の報告書)
ヒューマンライツ・ナウの伊藤和子事務局長
全労連の布施恵輔国際局長
賃金半分に減少
途上国と比較して賃金が高く労働時間の短い先進国では、製造業が空洞化しています。
最も深刻なのは米国です。米国の国内総生産(GDP)に占める主要産業の付加価値の割合をみると、製造業は27%(1950年)から12%(2016年)へと半減しています。同時期に増えたのは、サービス産業(11→27%)や金融・保険・不動産業(11→21%)です。
全労連の布施恵輔国際局長はいいます。
「製造業が海外に移転して、残った職は賃金が半分以下の配達やピザの宅配。年収が200万円台になってしまう。そういう現実がアメリカ国民に重くのしかかっています」
日本も例外ではありません。特に著しいのが繊維産業の空洞化です。従業員数は114万9千人(1985年)から26万8千人(2014年)へと、4分の1以下に激減しました。(グラフ)
15年には、衣類の国内供給量のうち97%が輸入品でした。いま日本人が身に着ける衣類のほとんどは外国製品という状況です。
拡大する逆輸入
電機産業でも生産の海外移転は進んでいます。経済産業省が「ものづくり白書」で危ぐしています。
14年版白書によると、輸送用機器(車など)と電気機器(テレビなど)と一般機械(パソコンなど)は従来、「輸出の三本柱」でした。ところがテレビやパソコンは「海外の生産拠点からの逆輸入が拡大している」といいます。日本企業が日本市場向けに、海外で生産しているのです。貿易黒字が縮小し、パソコンなど電算機類は1・6兆円もの貿易赤字(13年)となりました。
13年版白書は次のように嘆いています。
「わが国企業が高いシェアを有していた分野での輸入製品の浸透という変化が少しずつ起きている。冷蔵庫や洗濯機といった生活家電製品の分野では、円高に伴う生産の海外移管や国内への逆輸入の増加により、製品ごとの貿易収支が90年代以降、相次いで輸入超過(貿易赤字)へと転じている」
伊藤さんはいいます。「世界のどこかで起きている犠牲を容認すれば、自分たちの首を絞めることになるのが現代社会です。国境を超えて海外の労働者とつながり、共に人間らしく生きる道を探すべきではないでしょうか」
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2017年6月22日付掲載
フラッシュメモリやパソコンなどは、海外生産が進んでいますものね。ヒューレット・パッカードの様に東京生産にこだわっているのは珍しい方かな。