安保改定60年 第二部③ 日米演習18年度のべ1247日 安保法制の具体化加速
本紙集計
自衛隊と米軍が2018年度に実施した共同訓練・演習(日米双方が参加した多国間共同訓練を含む)が少なくとも88回、延べ1247日に達したことが分かりました。“日本版海兵隊”といわれる「水陸機動団」の本格始動、核兵器を搭載可能な米空軍のB52戦略爆撃機との共同訓練など、台頭する中国へのけん制と、安保法制に基づく海外侵攻への動きが加速しています。
本紙が、防衛省への情報公開請求で入手した資料をもとに集計しました。延べ日数の内訳は、統合幕僚監部が担当する統合演習が165日、陸上自衛隊が417日、航空自衛隊が158日、海上自衛隊が507日でした。
17年度比でみると、統幕が53日減、空・海自は同水準でしたが、陸自が110日増加しました。
陸自は、18年3月に発足した水陸機動団が、鹿児島県・種子島の旧種子島空港跡地(同県中種子町)などで、米海兵隊と離島奪回を想定した上陸作戦の共同訓練を実施。初の水陸両用作戦に関する国内での日米共同訓練で、自衛隊や米軍施設以外の土地で戦闘に関する共同訓練をするのも初めてのことでした。
水陸機動団は、米国内でも海兵隊との着上陸戦闘訓練を実施。「米海兵隊とともに世界に冠たる水陸両用作戦部隊として羽ばたけるよう取り組む」と宣言するなど、敵地侵攻作戦能力の向上を図っています。
空自は、日本海空域や東シナ海で、B52との共同訓練を3回実施しています。
海自は、関東南方から四国、沖縄にかけての海域で、米空母打撃群と何度も訓練を実施。18年11月には、原子力空母ロナルド・レーガン、空母ジョン・C・ステニスの両空母打撃群と海自護衛艦「ふゆづき」が共同訓練を行いました。
海自は、インド海軍との訓練も頻繁に行っています。日米が中国の海洋進出を念頭に打ち出した「自由で開かれたインド太平洋」戦略の一環とみられます。
攻撃性を強める自衛隊
「自衛隊とは日々協力している。継続的で現実的な厳しい訓練が必要だ。こういった訓練こそ強い同盟関係の要になる」。在日米軍のシュナイダー司令官は、こう強調します(2月25日、日本記者クラブでの会見)。2018年度の日米共同訓練・演習ののべ日数はグラフのように1247日。10年度の619日から、ほぼ倍増し、質的にも大きな変容をとげています。安保条約改定から安保法制11戦争法成立を経て、日米共同訓練はどこまで深化したのでしょうか。
水陸機動団と米海兵隊の合同実動訓練=2月9日、沖縄県金武町の金武ブルービーチ(在日米海兵隊ツイッターから)
海兵隊が「お手本」
日本平和委員会の上原久志調査研究委員は日米共同訓練について「自衛隊が攻撃的な性格を強めている。それは敵地に攻め込んで奪取する“島嶼(とうしょ)奪還”の上陸訓練に表れている」と分析します。
今年1月25日から2月13日まで、陸上自衛隊の水陸機動団が沖縄県の金武ブルービーチで在沖縄海兵隊の中軸部隊である第31海兵遠征隊(31MEU)と水陸両用訓練を実施。上陸して敵地を制圧後、高機動ロケット砲システム(HIMARS)を地上に展開しました。水陸機動団は同訓練に向かう際、米軍のドック型揚陸艦ジャーマンタウンに乗り込み、東シナ海上で31MEUとライフル訓練をしていたことを米軍が明らかにしています。
米海兵隊を「お手本、道しるべ」(青木伸一初代団長)として発足した水陸機動団は、31MEUから指南を受け続けています。上原さんは「水陸機動団は31MEU肝いりの部隊だ。31MEUと同じ任務が遂行できるよう、米海兵隊への組み込みが進んでいる」と指摘します。
1月12日に陸自習志野演習場(千葉県)で実施された陸自のパラシュート降下部隊・第1空挺(くうてい)団の「降下訓練始め」には、米陸軍の第82空挺師団が初めて参加。第82空挺師団は、1月3日の米軍によるイラン司令官殺害で中東情勢が悪化した際、ただちに現地に派遣されるなどした精鋭部隊です。
米国精鋭部隊とともに、ここでも水陸機動団が島嶼奪還作戦を遂行しました。
陸だけでなく、空・海も攻撃的な訓練を展開。空自は、核兵器搭載可能な米空軍のB52戦略爆撃機と共同訓練を繰り返り返し、各地で威嚇飛行をしています。
海自も米軍などとともに、接近・乗船・捜索・押収(VBSS)訓練を行うなど、「航行中の船舶を素早く戦術的に急襲する能力」(在日米軍司令部)をつけるところにまで踏み込んでいます。
2018年度の日米共同訓練の一覧
注1)網掛けは自衛隊・米軍双方が参加の多国間共同訓練
注2)日数は移動日含む、19年度に一部またがる訓練も18年度として集計
負担軽減を口実に
さらに「沖縄の負担軽減」を口実に、全国各地に日米共同訓練を拡大しています。1月22日~2月8日まで北海道で行われた合同演習「ノーザン・バイパー」は、米海兵隊と陸自の約4100人が参加するという日本国内では過去最大規模となりました。
上原さんは、「事故や騒音など訓練被害も増大している。沖縄の負担軽減もまやかしで、沖縄の痛みはさらに拡大している。沖縄と同じ痛みを全国にも広げて国民に押しつけている」と憤ります。
逆転する「縦と矛」
河野克俊前統合幕僚長は、「日本有事という戦術場面においては、攻勢を取る必要がある。なので、攻撃兵器を持っておかないと」(1月24日、日本記者クラブでの会見)と述べ、攻撃能力の保有を訴えています。
軍事史に詳しい纐纈(こうけつ)厚明治大学特任教授は、「安保改定60年の間の最大の変化は、米軍が攻めの『矛』、日本が守りの『盾』だった役割が逆転したこと。自衛隊が訓練を通じて相手方に第一撃を加える戦力を構築していることだ」と指摘。それを法的に担保するのが集団的自衛権行使容認の安保法制だと述べます。
「自衛隊が『矛』の能力を持つことにより、米軍は、資金や労力を使わずに東アジアで中国などをけん制し、軍事的存在感を担保することができる」
この側面を演習面からとらえることができるのが、日米共同方面隊指揮所演習「ヤマサクラ」です。纐纈氏は「米軍の動きに自衛隊がどう連動するかというレベルから、自衛隊の作戦行動を軸とし、それを米軍が補強していくというレベルにシフトしている」と解説。この図上演習で確認した自衛隊主導の作戦が、実動訓練で具体的に表れているのが、自衛隊に上陸・制圧、輸送力の各能力を身に付けさせる島嶼奪還訓練だといいます。
纐纈氏は「先制攻撃も含め、これまで米軍の専門領域だったものを自衛隊に代替させる作戦が構想されているのは間違いない。戦争に備える防衛的な訓練から、戦争をする攻撃的な訓練になってきている」と語ります。
自制と縮小が責任
そのうえで「実態として軍事訓練が改憲の先導役を果たしていることが大きな問題。攻撃的な日米共同訓練をみて中国や北朝鮮は脅威感信を持ち、脅威を払しょくするために軍拡に走る。日米共同訓練が軍拡の呼び水となっている」と強調。米国と北朝鮮が対話路線へ進んだ2018年の米朝首脳会談を受け、米韓合同軍事演習を縮小したのは北朝鮮に脅威を与えていた自己認識が米国側にあったからだとし、「訓練を自制・縮小することで平和的シグナルを送ることができる。これを先んじてやることが、平和憲法をもつ日本の責任だ」と提起します。
◇
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年3月8日付掲載
自衛隊の日米の合同演習は小さいのも入れると88回のべ1247日もあるんですね。
もちろん、豪州やフィリピンなども加わった訓練も。
自衛隊の役割が「盾」から「矛」に変わることも。
本紙集計
自衛隊と米軍が2018年度に実施した共同訓練・演習(日米双方が参加した多国間共同訓練を含む)が少なくとも88回、延べ1247日に達したことが分かりました。“日本版海兵隊”といわれる「水陸機動団」の本格始動、核兵器を搭載可能な米空軍のB52戦略爆撃機との共同訓練など、台頭する中国へのけん制と、安保法制に基づく海外侵攻への動きが加速しています。
本紙が、防衛省への情報公開請求で入手した資料をもとに集計しました。延べ日数の内訳は、統合幕僚監部が担当する統合演習が165日、陸上自衛隊が417日、航空自衛隊が158日、海上自衛隊が507日でした。
17年度比でみると、統幕が53日減、空・海自は同水準でしたが、陸自が110日増加しました。
陸自は、18年3月に発足した水陸機動団が、鹿児島県・種子島の旧種子島空港跡地(同県中種子町)などで、米海兵隊と離島奪回を想定した上陸作戦の共同訓練を実施。初の水陸両用作戦に関する国内での日米共同訓練で、自衛隊や米軍施設以外の土地で戦闘に関する共同訓練をするのも初めてのことでした。
水陸機動団は、米国内でも海兵隊との着上陸戦闘訓練を実施。「米海兵隊とともに世界に冠たる水陸両用作戦部隊として羽ばたけるよう取り組む」と宣言するなど、敵地侵攻作戦能力の向上を図っています。
空自は、日本海空域や東シナ海で、B52との共同訓練を3回実施しています。
海自は、関東南方から四国、沖縄にかけての海域で、米空母打撃群と何度も訓練を実施。18年11月には、原子力空母ロナルド・レーガン、空母ジョン・C・ステニスの両空母打撃群と海自護衛艦「ふゆづき」が共同訓練を行いました。
海自は、インド海軍との訓練も頻繁に行っています。日米が中国の海洋進出を念頭に打ち出した「自由で開かれたインド太平洋」戦略の一環とみられます。
攻撃性を強める自衛隊
「自衛隊とは日々協力している。継続的で現実的な厳しい訓練が必要だ。こういった訓練こそ強い同盟関係の要になる」。在日米軍のシュナイダー司令官は、こう強調します(2月25日、日本記者クラブでの会見)。2018年度の日米共同訓練・演習ののべ日数はグラフのように1247日。10年度の619日から、ほぼ倍増し、質的にも大きな変容をとげています。安保条約改定から安保法制11戦争法成立を経て、日米共同訓練はどこまで深化したのでしょうか。
水陸機動団と米海兵隊の合同実動訓練=2月9日、沖縄県金武町の金武ブルービーチ(在日米海兵隊ツイッターから)
海兵隊が「お手本」
日本平和委員会の上原久志調査研究委員は日米共同訓練について「自衛隊が攻撃的な性格を強めている。それは敵地に攻め込んで奪取する“島嶼(とうしょ)奪還”の上陸訓練に表れている」と分析します。
今年1月25日から2月13日まで、陸上自衛隊の水陸機動団が沖縄県の金武ブルービーチで在沖縄海兵隊の中軸部隊である第31海兵遠征隊(31MEU)と水陸両用訓練を実施。上陸して敵地を制圧後、高機動ロケット砲システム(HIMARS)を地上に展開しました。水陸機動団は同訓練に向かう際、米軍のドック型揚陸艦ジャーマンタウンに乗り込み、東シナ海上で31MEUとライフル訓練をしていたことを米軍が明らかにしています。
米海兵隊を「お手本、道しるべ」(青木伸一初代団長)として発足した水陸機動団は、31MEUから指南を受け続けています。上原さんは「水陸機動団は31MEU肝いりの部隊だ。31MEUと同じ任務が遂行できるよう、米海兵隊への組み込みが進んでいる」と指摘します。
1月12日に陸自習志野演習場(千葉県)で実施された陸自のパラシュート降下部隊・第1空挺(くうてい)団の「降下訓練始め」には、米陸軍の第82空挺師団が初めて参加。第82空挺師団は、1月3日の米軍によるイラン司令官殺害で中東情勢が悪化した際、ただちに現地に派遣されるなどした精鋭部隊です。
米国精鋭部隊とともに、ここでも水陸機動団が島嶼奪還作戦を遂行しました。
陸だけでなく、空・海も攻撃的な訓練を展開。空自は、核兵器搭載可能な米空軍のB52戦略爆撃機と共同訓練を繰り返り返し、各地で威嚇飛行をしています。
海自も米軍などとともに、接近・乗船・捜索・押収(VBSS)訓練を行うなど、「航行中の船舶を素早く戦術的に急襲する能力」(在日米軍司令部)をつけるところにまで踏み込んでいます。
2018年度の日米共同訓練の一覧
訓練名称 | 回数 | 日数 | |
統合幕僚監部 | 自衛隊統合防災演習 | 1 | 4 |
在外邦人等保護措置訓練(国外) | 1 | 9 | |
日米共同統合防災訓練 | 1 | 2 | |
日米共同統合演習(実動演習)「キーンソード」 | 1 | 11 | |
日米共同統合防空・ミサイル防衛訓練 | 1 | 6 | |
PSI海上阻止訓練「パシフィック・シールド18」 | 1 | 3 | |
コブラ・ゴールド19 | 1 | 41 | |
拡大ASEAN国防相会議防衛医学実動演習 | 1 | 11 | |
パシフィック・パートナーシップ2019 | 1 | 78 | |
小計 | 9 | 165 | |
陸上自衛隊 | 日米共同方面隊指揮所演習(国内、米国) | 2 | 31 |
米陸軍との実動訓練(国内、米国、豪州) | 4 | 143 | |
米海兵隊との実動訓練(国内、米国) | 4 | 81 | |
米国派遣訓練(リムパック2018) | 1 | 52 | |
豪州軍主催射撃競技会 | 1 | 15 | |
豪州における日米豪共同訓練 | 1 | 33 | |
カーン・クエスト18 | 1 | 15 | |
米比共同訓練「カマンダグ18」 | 1 | 47 | |
小計 | 15 | 417 | |
海上自衛隊 | 米国派遣訓練(敷設艦、潜水艦、護衛隊群、航空機) | 3 | 240 |
衛生特別訓練 | 1 | 1 | |
日米衛生共同訓練 | 1 | 1 | |
日米共同訓練 | 5 | 23 | |
日米共同巡航訓練 | 8 | 52 | |
対潜特別訓練(潜水艦隊戦技) | 1 | 10 | |
日米共同指揮所演習 | 1 | 11 | |
小規模基礎訓練 | 19 | 22 | |
(訓練名称、訓練実施日とも非開示) | 1 | ||
掃海特別訓練 | 2 | 24 | |
インドネシア海軍主催多国間共周訓練(コドモ2018) | 1 | 6 | |
日米印共同訓練(マラバール2018) | 1 | 10 | |
米海軍主催多国間共同訓練(リムパック2018) | 1 | 47 | |
豪州海軍主催多国間共同訓練(カカドゥ2018) | 1 | 56 | |
日米英共同訓練 | 2 | 3 | |
マレーシア海軍主催多国間海上演習 | 1 | 1 | |
小計 | 49 | 507 | |
航空自衛隊 | 日米共同訓練(訓練内容非開示1件含む) | 11 | 55 |
米国高等空輸戦術訓練センターにおける訓練 | 1 | 20 | |
レッド・フラッグ・アラスカ | 1 | 34 | |
米印共同訓練へのオブザーバー参加 | 1 | 8 | |
グアムにおける日米豪共同訓練 | 1 | 41 | |
小計 | 15 | 158 | |
合計 | 88 | 1247 |
注2)日数は移動日含む、19年度に一部またがる訓練も18年度として集計
負担軽減を口実に
さらに「沖縄の負担軽減」を口実に、全国各地に日米共同訓練を拡大しています。1月22日~2月8日まで北海道で行われた合同演習「ノーザン・バイパー」は、米海兵隊と陸自の約4100人が参加するという日本国内では過去最大規模となりました。
上原さんは、「事故や騒音など訓練被害も増大している。沖縄の負担軽減もまやかしで、沖縄の痛みはさらに拡大している。沖縄と同じ痛みを全国にも広げて国民に押しつけている」と憤ります。
逆転する「縦と矛」
河野克俊前統合幕僚長は、「日本有事という戦術場面においては、攻勢を取る必要がある。なので、攻撃兵器を持っておかないと」(1月24日、日本記者クラブでの会見)と述べ、攻撃能力の保有を訴えています。
軍事史に詳しい纐纈(こうけつ)厚明治大学特任教授は、「安保改定60年の間の最大の変化は、米軍が攻めの『矛』、日本が守りの『盾』だった役割が逆転したこと。自衛隊が訓練を通じて相手方に第一撃を加える戦力を構築していることだ」と指摘。それを法的に担保するのが集団的自衛権行使容認の安保法制だと述べます。
「自衛隊が『矛』の能力を持つことにより、米軍は、資金や労力を使わずに東アジアで中国などをけん制し、軍事的存在感を担保することができる」
この側面を演習面からとらえることができるのが、日米共同方面隊指揮所演習「ヤマサクラ」です。纐纈氏は「米軍の動きに自衛隊がどう連動するかというレベルから、自衛隊の作戦行動を軸とし、それを米軍が補強していくというレベルにシフトしている」と解説。この図上演習で確認した自衛隊主導の作戦が、実動訓練で具体的に表れているのが、自衛隊に上陸・制圧、輸送力の各能力を身に付けさせる島嶼奪還訓練だといいます。
纐纈氏は「先制攻撃も含め、これまで米軍の専門領域だったものを自衛隊に代替させる作戦が構想されているのは間違いない。戦争に備える防衛的な訓練から、戦争をする攻撃的な訓練になってきている」と語ります。
自制と縮小が責任
そのうえで「実態として軍事訓練が改憲の先導役を果たしていることが大きな問題。攻撃的な日米共同訓練をみて中国や北朝鮮は脅威感信を持ち、脅威を払しょくするために軍拡に走る。日米共同訓練が軍拡の呼び水となっている」と強調。米国と北朝鮮が対話路線へ進んだ2018年の米朝首脳会談を受け、米韓合同軍事演習を縮小したのは北朝鮮に脅威を与えていた自己認識が米国側にあったからだとし、「訓練を自制・縮小することで平和的シグナルを送ることができる。これを先んじてやることが、平和憲法をもつ日本の責任だ」と提起します。
◇
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年3月8日付掲載
自衛隊の日米の合同演習は小さいのも入れると88回のべ1247日もあるんですね。
もちろん、豪州やフィリピンなども加わった訓練も。
自衛隊の役割が「盾」から「矛」に変わることも。
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