コロナ禍と資本主義 宅配の闇① 楽天1200人を切り捨て
利用が広がるインターネット通販を最前線で支えているのが個人事業主の宅配ドライバーです。ネット通販大手の楽天やアマゾンは配送業務を下請けに丸投げしながら何兆円もの利益を独占してきました。現代資本主義の矛盾が噴き出す宅配の現場。その闇をただすため、人々が立ち上がっています。
誰か来た―。
台所横のインターホンが鳴りました。
「お届け物です」
配達員は、抱えていた段ポール箱を差し出すと、軽く会釈をして足早に去っていきました。
僕もああやって配っていたな…。
たくみさん(28)=仮名=は名前も知らない配達員に、かつての自分を重ねました。
楽天のロゴ=東京都内
楽天エクスプレス終了への憤りを語るたくみさん(仮名)
一方的終了
楽天の荷物を専門に配達していたたくみさんは、2021年5月、突然職を失いました。「約1200人」(楽天関係者)の同業者とともに、一斉に切り捨てられました。楽天が「自社配送」をうたって拡大していた目玉事業「楽天エクスプレス」を一方的に終了させたためです。
楽天エクスプレスは、通販サイト「楽天市場」などで販売する商品の一部を配達する事業。16年11月に始動し、事業が終わる21年5月時点で人口の63・5%をカバーしていました。
配送丸投げ
「自社」とは名ばかりで、楽天は業務委託を受けた各地の運送会社に配達車両やドライバーの手配を丸投げしていました。事実上、楽天の指揮命令の下で実配送を担っていたのはたくみさんたち個人事業主のドライバーです。
「酒の配送をしていた経験を生かせる」との思いで始めた宅配業者。その仕事は、想像を絶する過酷なものでした。
朝6時、会社から貸与された軽バンで向かったのは首都圏の倉庫です。楽天から貸与されたスマートフォンを受け取り、楽天指定の業務用アプリを起動。表示された配達リストを眺めながら、時間指定の荷物はいくつあるか、どこから先に回れば効率よく配り終えられるか―、頭の中で必死に組み立てました。
しかし、朝から晩まで車を走らせても荷物が一向になくなりません。渋滞。そして再配達の依頼…。不測の事態が次々に起こります。組み立てた配送ルートはことごとく崩れ、時間指定に間に合いません。1日の走行距離は多い時でおよそ130キロ。配達先に向かう移動時間が「休憩」でした。
努力と苦労 簡単に裏切り
楽天が独自に実施するセールに合わせて荷量が激増し、1日100個を超す荷物が車内を埋め尽くします。「早く来てくれ」。客からの催促がたくみさん(28)=仮名=の焦りに拍車をかけました。
「応援お願いします!」
SOSに応えてくれたのは同世代のドライバーたちです。大量の荷物を抱えながらも担当区域の垣根を越えてかけつけてくれました。
収入は多い時で月に50万円ほど。そのうち20万円ほどは車の賃貸料、ガソリン代、社会保険料などへ消えていきました。神経と体力をすり減らす日々に、多くのドライバーが去っていきました。
「それでも続けられたのは一緒に助け合う仲間がいたからです」
時間が合えばフットサルで共に汗を流し、食事の席で日頃の愚痴をこぼし合いました。
軽バンに乗り続けることおよそ1年半。
「いつもありがとうございます」。顔を覚えてくれた客からの言葉にドライバーとしての誇りが膨らんで隔いきました。
「宅配の仕事は性に合っている」
やりがいを見いだした矢先の2021年5月末、楽天エクスプレスが突然終了しました。契約解除を告げられたのはたった半月前です。
楽天本社があるクリムゾンハウス=東京都世田谷区
知らんぷり
たくみさんとともに多くのドライバーが一斉に職を失いました。楽天関係者は証言します。
「楽天エクスプレスのために、1日に最大で900台くらいの配達車両が稼働していた。休みのドライバーも含めて全体で1200人は所属していた」
本紙の取材に対して楽天は、「業務委託先様は40社程度ございましたが、個別に協議などの対応を行い、ほとんどの業務委託先様への対応を終えています」と書面で回答。一方、「業務委託先様とドライバーの方々の個別の契約内容にかかわるご質問については、当社からの回答を控えさせていただきます」などとしています。
楽天は委託先の運送会社への「対応」を理由に幕引きを図る狙いです。これに対し、実配送をこなしてきたたくみさんは憤ります。
「楽天の指示のもと荷物を届け切るために朝6時から夜12時まで18時間働いたこともあります。コロナ禍の中でも仲間と一致団結してなんとかやってきました。僕たちのその努力と苦労を楽天はいとも簡単に裏切ったんです」
抜け穴利用
個人事業主は労働基準法の適用外です。労働時間の上限規制や失業手当など働き手を守る枠組みは存在しません。契約を解除するだけで簡単に切り捨てることができます。法の抜け穴を利用してネット通販企業や下請けの運送会社は個人事業主への外部委託化を加速させてきました。
そんな中、楽天に一方的に使い捨てられたたくみさんは今も心の隙間に消えないもどかしさを抱えています。
「少なくとももっと早く委託先に契約解除を伝えることはできたはずです。なぜ半月前の告知だったのか」
「自社配送」という目玉事業を突然打ち切ったその裏で、楽天はひそかに不都合な事実を闇に葬ろうとしていました。
(つづく)(9回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年3月15日付掲載
利用が広がるインターネット通販を最前線で支えているのが個人事業主の宅配ドライバー。ネット通販大手の楽天やアマゾンは配送業務を下請けに丸投げしながら何兆円もの利益を独占。
楽天が「自社配送」をうたって拡大していた目玉事業「楽天エクスプレス」を一方的に終了。
「自社」とは名ばかりで、楽天は業務委託を受けた各地の運送会社に配達車両やドライバーの手配を丸投げ。
個人事業主は労働基準法の適用外。法の抜け穴を利用してネット通販企業や下請けの運送会社は個人事業主への外部委託化を加速。
利用が広がるインターネット通販を最前線で支えているのが個人事業主の宅配ドライバーです。ネット通販大手の楽天やアマゾンは配送業務を下請けに丸投げしながら何兆円もの利益を独占してきました。現代資本主義の矛盾が噴き出す宅配の現場。その闇をただすため、人々が立ち上がっています。
誰か来た―。
台所横のインターホンが鳴りました。
「お届け物です」
配達員は、抱えていた段ポール箱を差し出すと、軽く会釈をして足早に去っていきました。
僕もああやって配っていたな…。
たくみさん(28)=仮名=は名前も知らない配達員に、かつての自分を重ねました。
楽天のロゴ=東京都内
楽天エクスプレス終了への憤りを語るたくみさん(仮名)
一方的終了
楽天の荷物を専門に配達していたたくみさんは、2021年5月、突然職を失いました。「約1200人」(楽天関係者)の同業者とともに、一斉に切り捨てられました。楽天が「自社配送」をうたって拡大していた目玉事業「楽天エクスプレス」を一方的に終了させたためです。
楽天エクスプレスは、通販サイト「楽天市場」などで販売する商品の一部を配達する事業。16年11月に始動し、事業が終わる21年5月時点で人口の63・5%をカバーしていました。
配送丸投げ
「自社」とは名ばかりで、楽天は業務委託を受けた各地の運送会社に配達車両やドライバーの手配を丸投げしていました。事実上、楽天の指揮命令の下で実配送を担っていたのはたくみさんたち個人事業主のドライバーです。
「酒の配送をしていた経験を生かせる」との思いで始めた宅配業者。その仕事は、想像を絶する過酷なものでした。
朝6時、会社から貸与された軽バンで向かったのは首都圏の倉庫です。楽天から貸与されたスマートフォンを受け取り、楽天指定の業務用アプリを起動。表示された配達リストを眺めながら、時間指定の荷物はいくつあるか、どこから先に回れば効率よく配り終えられるか―、頭の中で必死に組み立てました。
しかし、朝から晩まで車を走らせても荷物が一向になくなりません。渋滞。そして再配達の依頼…。不測の事態が次々に起こります。組み立てた配送ルートはことごとく崩れ、時間指定に間に合いません。1日の走行距離は多い時でおよそ130キロ。配達先に向かう移動時間が「休憩」でした。
努力と苦労 簡単に裏切り
楽天が独自に実施するセールに合わせて荷量が激増し、1日100個を超す荷物が車内を埋め尽くします。「早く来てくれ」。客からの催促がたくみさん(28)=仮名=の焦りに拍車をかけました。
「応援お願いします!」
SOSに応えてくれたのは同世代のドライバーたちです。大量の荷物を抱えながらも担当区域の垣根を越えてかけつけてくれました。
収入は多い時で月に50万円ほど。そのうち20万円ほどは車の賃貸料、ガソリン代、社会保険料などへ消えていきました。神経と体力をすり減らす日々に、多くのドライバーが去っていきました。
「それでも続けられたのは一緒に助け合う仲間がいたからです」
時間が合えばフットサルで共に汗を流し、食事の席で日頃の愚痴をこぼし合いました。
軽バンに乗り続けることおよそ1年半。
「いつもありがとうございます」。顔を覚えてくれた客からの言葉にドライバーとしての誇りが膨らんで隔いきました。
「宅配の仕事は性に合っている」
やりがいを見いだした矢先の2021年5月末、楽天エクスプレスが突然終了しました。契約解除を告げられたのはたった半月前です。
楽天本社があるクリムゾンハウス=東京都世田谷区
知らんぷり
たくみさんとともに多くのドライバーが一斉に職を失いました。楽天関係者は証言します。
「楽天エクスプレスのために、1日に最大で900台くらいの配達車両が稼働していた。休みのドライバーも含めて全体で1200人は所属していた」
本紙の取材に対して楽天は、「業務委託先様は40社程度ございましたが、個別に協議などの対応を行い、ほとんどの業務委託先様への対応を終えています」と書面で回答。一方、「業務委託先様とドライバーの方々の個別の契約内容にかかわるご質問については、当社からの回答を控えさせていただきます」などとしています。
楽天は委託先の運送会社への「対応」を理由に幕引きを図る狙いです。これに対し、実配送をこなしてきたたくみさんは憤ります。
「楽天の指示のもと荷物を届け切るために朝6時から夜12時まで18時間働いたこともあります。コロナ禍の中でも仲間と一致団結してなんとかやってきました。僕たちのその努力と苦労を楽天はいとも簡単に裏切ったんです」
抜け穴利用
個人事業主は労働基準法の適用外です。労働時間の上限規制や失業手当など働き手を守る枠組みは存在しません。契約を解除するだけで簡単に切り捨てることができます。法の抜け穴を利用してネット通販企業や下請けの運送会社は個人事業主への外部委託化を加速させてきました。
そんな中、楽天に一方的に使い捨てられたたくみさんは今も心の隙間に消えないもどかしさを抱えています。
「少なくとももっと早く委託先に契約解除を伝えることはできたはずです。なぜ半月前の告知だったのか」
「自社配送」という目玉事業を突然打ち切ったその裏で、楽天はひそかに不都合な事実を闇に葬ろうとしていました。
(つづく)(9回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年3月15日付掲載
利用が広がるインターネット通販を最前線で支えているのが個人事業主の宅配ドライバー。ネット通販大手の楽天やアマゾンは配送業務を下請けに丸投げしながら何兆円もの利益を独占。
楽天が「自社配送」をうたって拡大していた目玉事業「楽天エクスプレス」を一方的に終了。
「自社」とは名ばかりで、楽天は業務委託を受けた各地の運送会社に配達車両やドライバーの手配を丸投げ。
個人事業主は労働基準法の適用外。法の抜け穴を利用してネット通販企業や下請けの運送会社は個人事業主への外部委託化を加速。
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