賃金の上がる国へ② 「労働市場改革」誰のため
ジャーナリスト 昆弘見さん
岸田文雄政権は、「三位一体の労働市場改革」で「構造的賃上げ」をめざすとしています。岸田首相の肝いりで発足した「新しい資本主義実現会議」が昨年5月に「三位一体の労働市場改革の指針」をまとめ、それを政府が「骨太方針」の目玉に据え、6月に閣議決定しました。
「リスキリング(学び直し)による能力向上支援」「個々の企業に応じた職務給の導入」「成長分野への労働移動の円滑化」というのが改革の内容ですが、これは誰のための改革なのでしょうか。構造的に賃金が上がる改革といえば労働者のためのようですが、実際は違います。
“移動を円滑に”
AI(人工知能)デジタル革命などといわれる新しい時代に役立つ人材を育成する投資と、もうかる事業とつぶす事業の間で労働者の移動を円滑にすすめるシステムをつくること。これが財界・大企業が近年強く求めている利益拡大戦略の柱です。それがそのまま政府の方針になったものです。
労働者がリスキリングで能力を磨き、新しい会社で成果を認められ、勤続年数や年齢に関係なく高い賃金の「職務」につく、そしてもっと待遇の良い成長分野に自由に移動していく。こうして構造的に賃金が上がるようになる―。
とてもいい話にみえます。しかし、こういうチャンスに恵まれ、もうかる産業に移動し、上昇気流に乗れる労働者ははたしてどれだけいるでしょうか。「成績トップ」のごく一部で、財界が必要としている人材は労働者全体の1割もいるかどうかでしょう。その「ごく一部」の枠に入るために労働者は過酷な競争に追い込まれることになります。
「三位一体の労働市場改革」は、端的に言うと正社員の雇用形態の破壊、流動化が本当のねらいだと思います。
財界はいま新しい時代に遅れないように既存の産業構造の破壊・転換、もうかる産業の育成に躍起になっています。「新しい資本主義実現会議」の議論で、委員の冨山和彦氏(経営共創基盤グループ会長)がストレートに語っています。
「産業と企業の新陳代謝を進めなければならない」「三位一体改革は、本当に急がなければ駄目だ」「例えば日本型ホワイトカラーという職種は本当に市場価値がない」
要するに、日本のいまの労働者は、伝統的な年功賃金・終身雇用制度のもとで現状に安住し、無価値で役に立たないということです。強烈な悪罵でびっくりです。
退職強要の口実
「市場価値がない」労働者をどうするか。企業の仕組みを「職務型」に変えて、「職務」の能力がない労働者は低評価・リストラ対象になる。「リスキリング」支援が退職強要の口実になると思います。「リスキリング」のための自己都合退職の場合、失業給付を会社都合退職と同じ扱いにする「優遇措置」をとるといいます。経団連は「解雇の金銭解決制度」の創設を急ぐよう要求しています。
岸田政権がかかげる労働市場改革の重点は、企業が必要とする人材育成をめざしながらも、むしろ企業が不要と判断する余剰労働者を容易に抵抗なく放り出す仕組みをつくることにあるというべきです。
労働市場改革でめざすのは「構造的賃上げ」ではなく、雇用不安と賃金低下にほかなりません。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年6月5日付掲載
「三位一体の労働市場改革」は、端的に言うと正社員の雇用形態の破壊、流動化が本当のねらいだと思います。
財界はいま新しい時代に遅れないように既存の産業構造の破壊・転換、もうかる産業の育成に躍起になっています。「新しい資本主義実現会議」の議論で、委員の冨山和彦氏(経営共創基盤グループ会長)がストレートに語っています。
岸田政権がかかげる労働市場改革の重点は、企業が必要とする人材育成をめざしながらも、むしろ企業が不要と判断する余剰労働者を容易に抵抗なく放り出す仕組みをつくることにあるというべき。
ジャーナリスト 昆弘見さん
岸田文雄政権は、「三位一体の労働市場改革」で「構造的賃上げ」をめざすとしています。岸田首相の肝いりで発足した「新しい資本主義実現会議」が昨年5月に「三位一体の労働市場改革の指針」をまとめ、それを政府が「骨太方針」の目玉に据え、6月に閣議決定しました。
「リスキリング(学び直し)による能力向上支援」「個々の企業に応じた職務給の導入」「成長分野への労働移動の円滑化」というのが改革の内容ですが、これは誰のための改革なのでしょうか。構造的に賃金が上がる改革といえば労働者のためのようですが、実際は違います。
“移動を円滑に”
AI(人工知能)デジタル革命などといわれる新しい時代に役立つ人材を育成する投資と、もうかる事業とつぶす事業の間で労働者の移動を円滑にすすめるシステムをつくること。これが財界・大企業が近年強く求めている利益拡大戦略の柱です。それがそのまま政府の方針になったものです。
労働者がリスキリングで能力を磨き、新しい会社で成果を認められ、勤続年数や年齢に関係なく高い賃金の「職務」につく、そしてもっと待遇の良い成長分野に自由に移動していく。こうして構造的に賃金が上がるようになる―。
とてもいい話にみえます。しかし、こういうチャンスに恵まれ、もうかる産業に移動し、上昇気流に乗れる労働者ははたしてどれだけいるでしょうか。「成績トップ」のごく一部で、財界が必要としている人材は労働者全体の1割もいるかどうかでしょう。その「ごく一部」の枠に入るために労働者は過酷な競争に追い込まれることになります。
「三位一体の労働市場改革」は、端的に言うと正社員の雇用形態の破壊、流動化が本当のねらいだと思います。
財界はいま新しい時代に遅れないように既存の産業構造の破壊・転換、もうかる産業の育成に躍起になっています。「新しい資本主義実現会議」の議論で、委員の冨山和彦氏(経営共創基盤グループ会長)がストレートに語っています。
「産業と企業の新陳代謝を進めなければならない」「三位一体改革は、本当に急がなければ駄目だ」「例えば日本型ホワイトカラーという職種は本当に市場価値がない」
要するに、日本のいまの労働者は、伝統的な年功賃金・終身雇用制度のもとで現状に安住し、無価値で役に立たないということです。強烈な悪罵でびっくりです。
退職強要の口実
「市場価値がない」労働者をどうするか。企業の仕組みを「職務型」に変えて、「職務」の能力がない労働者は低評価・リストラ対象になる。「リスキリング」支援が退職強要の口実になると思います。「リスキリング」のための自己都合退職の場合、失業給付を会社都合退職と同じ扱いにする「優遇措置」をとるといいます。経団連は「解雇の金銭解決制度」の創設を急ぐよう要求しています。
岸田政権がかかげる労働市場改革の重点は、企業が必要とする人材育成をめざしながらも、むしろ企業が不要と判断する余剰労働者を容易に抵抗なく放り出す仕組みをつくることにあるというべきです。
労働市場改革でめざすのは「構造的賃上げ」ではなく、雇用不安と賃金低下にほかなりません。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年6月5日付掲載
「三位一体の労働市場改革」は、端的に言うと正社員の雇用形態の破壊、流動化が本当のねらいだと思います。
財界はいま新しい時代に遅れないように既存の産業構造の破壊・転換、もうかる産業の育成に躍起になっています。「新しい資本主義実現会議」の議論で、委員の冨山和彦氏(経営共創基盤グループ会長)がストレートに語っています。
岸田政権がかかげる労働市場改革の重点は、企業が必要とする人材育成をめざしながらも、むしろ企業が不要と判断する余剰労働者を容易に抵抗なく放り出す仕組みをつくることにあるというべき。
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