「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。
米同時テロ9・11 20年 報復戦争の教訓 対テロ戦争① 戦線広がり 増えたテロ
世界を震え上がらせた2001年9月11日の米同時多発テロ事件から20年が過ぎました。米国が事件への報復として同年10月に始めたアフガニスタンに対する一方的な攻撃は同国史上最長の戦争となりました。米軍は先月末の撤収で一区切りをつけたものの、この20年にテロは各地に広がり、「対テロ戦争」は収まっていません。報復戦争は米国と世界にどのような教訓をもたらしたのか―。シリーズで考えます。
米同時多発テロ
2001年9月11日、米国上空で民間旅客機4機がほぼ同時にテロリストによってハイジャックされ、ニューヨークの世界貿易センターに2機、ワシントン郊外の国防総省に1機が激突、ペンシルベニア州の原野に1機が墜落し、約3000人の死者を出した史上最悪のテロ事件。当時のブッシュ政権はサウジアラビア出身のウサマ・ビンラディン容疑者(11年5月殺害)率いる国際テロ組織アルカイダの犯行と断定し、「対テロ戦争」を宣言しました。(時事)
米ブラウン大学ワトソン国際公共問題研究所によると、米国は20年の時点で世界85カ国を「対テロ戦争」に巻き込み、国軍の訓練や支援、無人機を含めた空爆などを実施しています。
9月9日、米ニューヨークの世界貿易センタービル跡地の記念碑にバラを供える人(ロイター)
虚偽主張で侵略
同時多発テロ当時のブッシュ(息子)大統領はアフガニスタンを侵略後の03年3月、「大量破壊兵器がある」という虚偽の主張でイラクを侵略しました。
ブッシュ政権の戦争を批判して誕生したオバマ政権は戦線をイエメンやシリアにも拡大。無人機や特殊部隊を使った戦争を地球規模に広げました。トランプ政権は、核兵器以外の通常兵器では最強レベルの爆弾をアフガンで使用するなど、作戦をいっそう残虐なものにしました。
一方で米国が占領したイラクは、首都バグダッドの国連施設で大規模な自爆テロ(03年10月)が起きるなどテロの温床になっていきました。14年からは、イラクからシリアにかけて過激組織ISが勢力を拡大。15年11月にはパリでISによる同時多発テロが発生するなど、テロの波は欧州諸国にも押し寄せるようになりました。
自己破滅的行為
ポストンにあるノースイースタン大学のバレンタイン・モガダム教授は、20年間を振り返って、「結局のところ『テロをなくす戦争』というのは全くの偽善であり、自己破滅的な行為だった」と批判します。「特にISは米国自身がつくり出したものだ」と強調しました。
アフガンでは米軍が撤退を急ぐなかで8月26日に過激組織IS系武装集団による自爆テロが発生。米兵を含む約180人が犠牲になりました。バイデン政権は翌27日には無人機で報復攻撃を実施しました。バイデン氏は撤退完了を宣言した31日の演説でテロに加わる者を「地の果てまで追い詰めて代償を支払わせる」と述べました。
フォーダム大学ロースクールのカレン・グリーンバーグ教授は米誌『ネーション』で、対テロ戦争は休戦協定を結ぶ相手のある通常の戦争とは違うと強調。テロに武力で報復するというやり方では「戦争が永遠に続くだろう」と指摘しています。
前出のモガダム教授は「20年間の失敗について検証が必要だ。米軍の介入で世界を不安定にさせた責任について、米国民は共和・民主の歴代政権の責任を問わねばならない」と話します。
(ワシントン=島田峰隆)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年9月11日付掲載
同時多発テロ事件の数カ月後、アメリカブッシュ政権はアルカイダの犯行だと断定。その本拠地のアフガニスタンを空爆。それまで聞いたことのなかった「アルカイダ」という組織。
当時、「良く判ったな」「すごい情報網だな」と言う思いと、なぜ国際政治で批判することなく、いきなりアフガニスタンを攻撃するのかという憤りがありました。
20年経ったいまもテロは無くなっていません。バイデン大統領もアフガニスタン、イラク戦争の反省の色なし。
コロナ禍の中の自公農政③ 持続可能な農業めざして 家族農林漁業の振興こそ
日本共産党国会議員団 農水部会長 田村貴昭衆院議員に聞く
―先の国会では、環境問題も大きなテーマとなりましたね。
田村 政府は3月、有機農業の面積を2050年までに現在の0・5%から25%へ拡大する「みどりの食料システム戦略」を発表しました。
有機農業の関係者は、あまりに高い数値が唐突に示されたことに困惑しました。また、その内容も、これまで長年積み上げられてきた有機農業の取り組みを無視し、ドローンやロボット、農薬の開発などの「イノベーションで実現」などとされていたのです。
有機農業に取り組んでこられた研究者の方は、「自然の生態系の中で作物の持つ生命力をどう引き出すかという有機農業の思想からかけ離れている」と、意見を寄せてくださいました。私は国会でそのまま紹介しました。
千葉県いすみ市では、学校給食を100%有機米にする目標を立て、地域の生産者、関係者の努力によって達成しています。このような取り組みこそ、国が応援すべきです。
農業在来品種保全法案を岡田憲治衆院事務総長(左から3人目)に提出する田村貴昭議員(左端)ら野党議員=6月11日、国会内
低すぎる政府目標
―農林漁業における地球温暖化対策も重要な課題ですね。
田村 今年8月公表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)報告書」は、今後20年間で1・5度以上の気温上昇(産業革命前比)が起きると警告しました。このままでは、異常な高温や豪雨などがさらに激化し、悪化を止められない破局的な事態に陥りかねません。
政府は昨年、ようやく50年までに温室効果ガス排出ゼロを表明し、30年までに46%削減(13年比)を打ち出しました。しかし、目標が低すぎます。国会に参考人として出席した大学生は、この数値を「あなたたちの未来と命はないとの宣告だ」と発言しました。その通りです。
ところが、国土の約7割を占める森林では、環境対策とは逆のことが進行しています。
政府の林業政策は、伐採施業を集約化、大規模化、機械化してコストを下げ、木材生産量を拡大しようというものです。高性能林業機械の導入を促進するために、機械を山へ入れる作業道をつくる費用を支援したりしています。
その結果、今、全国の山中では、見渡す限り伐採する「皆伐」が行われ、うち7割が再造林もされず放置されています。これでは、今は樹木として蓄積されている炭素を、森からどんどん放出するだけになってしまいます。
また、斜面をジグザグに切ってつくった大きな作業道は、雨が降ると川になって崩れます。谷筋にたまった土砂は、大雨が降ると水をせき止めるダムになり、土石流を招きます。川に流れ込んだ土砂で河床が上昇し、下流域の洪水のリスクが増大します。
熊本県球磨(くま)川流域の豪雨被害を調査したNPO法人自伐型林業推進協会は、球磨川集水域で少なくとも180カ所以上が崩れ、うち9割以上が皆伐地の作業道だったと報告しています。
私は、災害を招くような政策を改め、小規模であっても森林を守り育てながら間伐を続ける環境保全型の「長伐期・多間伐施業」を中心に据えるべきだと訴えてきました。
共産党の大躍進で
―まもなく総選挙です。どう臨みますか。
田村 農林漁業の効率化、大規模化、IT(情報技術)化によるコスト削減を偏重する政府の政策は小規模な農林漁業者を圧迫し、農村を荒廃させています。環境対策とも矛盾します。
今年は、国連が定めた「家族農業の10年」の3年目です。小規模な家族農林漁業こそ、経済的、社会的、環境的に持続可能な形態であるとして、各国の農業政策の中心に位置づけるよう呼びかけています。
日本の農林漁業政策も、そうした方向に大きく転換しなければなりません。脱炭素と結びついた、小規模な家族農林漁業の振興を本格的に進めるため、日本共産党を大躍進させたいと思います。(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年9月11日付掲載
農林漁業の分野での地球温暖化対策。
国土の約7割を占める森林では、環境対策とは逆のことが。政府の林業政策は、伐採施業を集約化、大規模化、機械化してコストを下げ、木材生産量を拡大しようというもの。
全国の山中では、見渡す限り伐採する「皆伐」が行われ、うち7割が再造林もされず放置。手間ひまかかりますが、「間伐」で、大きな木を切って、その下から若い木が成長していくってパターンが良いのですが。
大規模化やIT化でなく、小規模な家族農林漁業こそ、経済的、社会的、環境的に持続可能な形態。
コロナ禍の中の自公農政② 大企業優先を推進 小規模経営切り捨て
日本共産党国会議員団 農水部会長 田村貴昭衆院議員に聞く
―コロナ禍の中でも、自公政権が脱却できない既存の路線というのは、どういったものですか。
田村 私が衆院農林水産委員会に所属した2017年以降、11カ国の環太平洋連携協定(TPP)が発効したのをはじめ、日米貿易協定、日本欧州連合(EU)経済連携協定、東アジアの包括的地域連携協定(RCEP)と立て続けに、農産物輸入の「自由化」が行われました。
米国やオーストラリア、ヨーロッパなどからの農産物にかけられているほとんどの関税が、今後十数年かけてジリジリと下げられ、最終的には撤廃されます。
安倍晋三前政権は、外国産と競争できる経営を支援するとして、小規模経営や家族経営を切り捨て、企業化、大規模化を推進しました。これは、安倍前首相が13年の施政方針演説で公言した、「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指す」という方針の農業政策版でした。
農家が種をとれぬ
―種子法の廃止や種苗法の改定もその流れですね。
田村 安倍前政権は18年、突然、各県の農業試験場の根拠法である「主要農作物種子法」を廃止してしまいました。しかも、「農業試験場が持っている技術とデータを、民間企業に売り渡して、開発をやめろ」という通知まで出しました。
さらに、その後、品種開発者の権利を強化する種苗法改定が行われました。農家はこれまで、種を買ってきて育て、種を取って再び植える「自家採種」ができました。しかし、今後は、お金を払って権利者から許諾を取らなくてはならなくなったのです。
「化学肥料とセットで種を販売する大企業の品種開発」のための改定だという批判が広がりました。改定種苗法は最終的には成立しましたが、それに反対した野党の共闘が進みました。その過程で、「種子法復活法案」を野党の共同で提出し、審議もさせました。
種苗法改定案の委員会での採決に抗議する人たち=2020年12月1日、参院議員会館前
大漁旗が国会包囲
―大企業優先の「改革」は水産・漁業分野でもみられましたね。
田村 17年、クロマグロの資源管理として、政府が出した漁獲枠の配分は、少数の大手まき網の船団を優遇するものでした。2万隻におよぶ沿岸のマグロ漁師にはわずかな枠しか配分されませんでした。
「1回漁に出たらもう枠がなくなった」と、怒った全国のマグロ漁師が国会に押し寄せ、水産庁前に大漁旗がはためきました。私も漁師の国会デモに協力し、他の野党も集会に参加して、共闘が広がりました。
さらには、「水産改革」と称して、漁業法の大改悪が行われました。戦後の漁業法は、地元の漁業者が優先的に漁場を利用できる制度を定めていました。しかし、安倍前政権はこれを70年ぶりに全面改定し、外部の企業が参入できる仕組みを導入したのです。
かつてのように、漁業権免許を漁業協同組合から得る代わりに、漁場の環境保全に協力し、漁獲・出荷の方針に従うのは、企業にとって制約です。そこで、免許を知事から直接受けられるようにし、海面を自由に利用できるようにしたのです。
このときも、漁師が大漁旗を掲げて院内集会を行い、野党との共同が進みました。
19年の参議院選挙の直前、ある離島の漁師の方々の集いで、私が国会報告を行いました。島のリーダーの方が「一体どの政党、どの議員が俺たちの声を聞いてくれているのか。みんな真剣に判断してほしい」と、日本共産党への支持を訴えてくれました。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年9月10日付掲載
家族経営の農家が、自分の農地で育てた苗を使って栽培できないって…。種苗法(しゅびょうほう)の問題点。
地域に根差した作物を育てることが出来なくなるってことで、デメリットです。
漁業でも、大規模業者が幅を利かせて。
許されません。
コロナ禍の中の自公農政① 米価暴落も策なし 総選挙で「農村の反乱」へ
日本共産党国会議員団 農水部会長 田村貴昭衆院議員に聞く
新型コロナウイルス禍で大打撃を受けている農林水産分野でも政府の無策が顕著になっています。総選挙を控え、国会論戦の到達点と今後の課題について、日本共産党の田村貴昭衆院議員・国会議員団農水部会長に聞きました。(聞き手・北川俊文)
インタビューに答える田村貴昭議員
―国会での農林水産分野での論戦について話してください。
田村 この間の国会で明らかになったのは、第一に、菅義偉自民・公明政権が、新型コロナウイルス禍で著しい需要減と価格低下に見舞われた第1次産業に対しても全く無策だったことです。第二に、コロナ禍で食料生産基盤の脆弱(ぜいじゃく)さがあらわになったにもかかわらず、既存の路線を改められない現政権の姿です。
この2点が顕著に表れたのが、米価暴落の問題です。
今、米の出荷の際、農業協同組合(JA)などが支払う前渡しの価格が各地で明らかになってきています。
米の生産費の平均は60キロ当たり1万5000円台です。しかし、前渡しの価格は、新潟の一般コシヒカリで前年比1800円減の1万2200円でした。福井は1万500円(2700円減)、三重は9500円(3100円減)まで下がりました。千葉では、あきたこまち(60キロ)を6000円台に設定するJAまで出ています。
私は国会で、「60キロ1万円を切る『米価暴落』となりかねない。ペットボトル1杯のお米が、ミネラルウオーターより安くなってしまう」と何度も警告しましたが、現実になりました。
米価暴落への緊急対策を農林水産省側(手前)に求める農業関係者たち=5月20日、衆院第1議員会館
在庫が米価下押し
―なぜ、これほど米価が下がるのですか。
田村 新型コロナウイルスの感染拡大で、米の需要が激減したからです。外出や旅行の自粛、飲食店の休業や営業時間短縮など、外食需要が落ち込みました。一斉休校による学校給食中止も大きく影響しました。
実は、昨年秋、過剰在庫がすでに積みあがっていました。それを解消するには、2021年産の生産量を前年より36万トン(生産量の5%)減らす必要があるとして、政府は過去最大の作付け削減を打ち出しました。行政や農協を通じてなりふり構わず産地や生産者に実行を迫って、目標はほぼ達成されました。
しかし、コロナ禍が長期化し、需要の減少が続く中、在庫が当初見通しを20万トン前後上回って新年度に繰り越されることが分かり、21年産の米価を暴落させ、22年産にも影響を及ぼしかねない事態になったのです。
こうして、6月末の米の民間在庫は、適正とされる180万トンを大きく超え、219万トンにまで膨れ上がってしまいました。この過剰在庫が、米価を押し下げているのです。
食料自給率が最低
―どんな対策をとるべきですか。
田村 農民運動全国連合会(農民連)は昨年の早い段階から、「政府の責任で米を買い上げ、市場から隔離を」と求めていました。JAや自治体からも同様の要求が上がっていました。
日本共産党の紙智子参院議員も私も国会で再三、「米を買い上げ、生活困窮者に供給せよ」「外国からの米の輸入を停止せよ」と要求しました。
流通業者も含め誰もが、今回は、政府も何らかの強力な対策をとるだろうと思っていました。しかし、政府が動かないまま、ここまできてしまいました。米価暴落で農家がどんなに困っていても、年間77万トンものミニマムアクセス(最低輸入機会)米の輸入をやめようとしないのです。
振り返ると、安倍晋三前政権は18年、米農家への戸別所得補償を廃止し、米の生産調整の配分をやめてしまいました。50年続いた「減反政策」をやめ、米の需給調整の責任を放棄したのです。政府は、紙議員や私に対し「農家が自分で需要に合わせて生産をすべきだ」と繰り返し答弁しました。まさに、自己責任論、新自由主義そのものです。
歴代自民党政権、自公政権の農政の結果、農業と農村の疲弊が進み、20年度の日本の食料自給率は、過去最低の37・17%となりました。農業従事者は15年から20年までの5年間で198万人から152万人へ、46万人も減少しました。日本の米を守り、農業と農村を維持していくには、もはや政権を代えるしか道はありません。
新しい政権めざし
―菅首相は自民党総裁選挙不出馬を表明しましたが。
田村 菅首相は、内閣支持率が過去最低水準へ落ち込む中で、国民の世論と運動に追い詰められて退陣を余儀なくされました。これは、菅政権だけでなく、長く続いた自公政治の破綻です。総裁選で誰が選ばれようとも、破綻した従来の政治の枠内では農業と農村に新しい展望は開けません。
総選挙で、自公政治そのものを退場させ、野党が結束して新しい政権をつくるために、市民と野党の共闘を進めましょう。特に、農村では、米価暴落に対する政府の無策に怒りが広がっています。16年の参議院選挙で東北5県と長野、新潟の1人区で野党候補が勝利した「東北の反乱」を上回り、全国で「農村の反乱」を実現しましょう。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年9月8日付掲載
米価の暴落。新型コロナウイルスの感染拡大で、米の需要が激減。外出や旅行の自粛、飲食店の休業や営業時間短縮など、外食需要が落ち込み。一斉休校による学校給食中止も大きく影響。
農民運動全国連合会(農民連)は昨年の早い段階から、「政府の責任で米を買い上げ、市場から隔離を」と。日本共産党の紙智子参院議員も私も国会で再三、「米を買い上げ、生活困窮者に供給せよ」「外国からの米の輸入を停止せよ」と要求。民間市場に任せるのではなく、政府が積極的に介入せよ。
コメ生産者にも生活困窮者にも同時にメリットになること。
総選挙で自公政権に審判を。
エネルギーの未来 政府計画案を読む② 原発27基の稼働ねらう
菅義偉政権のエネルギー基本計画案は、原発について「実用段階にある脱炭素技術」「長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なべースロード電源」と位置づけ、2030年度の電源構成比を現行計画と同じ20~22%としました。さらに50年を展望して「必要な規模を持続的に活用する」と宣言しました。新型原発の開発を進めることも書かれています。
福島原発事故後、21基の原発が廃炉となり、27基(建設中2基含む)が原子力規制委員会に新規制基準への適合審査を申請しました。これまでに10基が再稼働しましたが、電源構成では約6%(19年度)です。政府案が示す20~22%は、審査中のものも含めて27基すべてをフル稼働させることに椙当します。
この高い目標を実現するために、政府案は再稼働への取り組み強化を掲げています。立地自治体などの理解を得るため、国が前面に立つとともに、規制委員会の審査などへの対策として産業界連携で「再稼働加速タスクフォース」を立ち上げます。定期検査の検査期間短縮や検査間隔延長など稼働率引き上げの取り組みも進めます。
しかし、27基のうち12基は30年までに原則40年という法定運転期間を超過します。すでに4基(高浜1号・2号、美浜3号、東海第2)が60年運転への延長を許可されていますが、8基は電力会社の延長申請もない段階です。政府案が示す電源構成は、電力会社の経営判断を棚上げし、国民世論を無視するものです。
原発ゼロ基本法の制定を求めてパレードする人たち=4月4日、東京都中央区
●また安全神話
政府案には、新増設に関する明文での記述はありませんが、審議会では、産業界などが原発の新増設を書き込むよう強く求めました。自民党の総合エネルギー戦略調査会事務局長の山際大志郎衆院議員・元経産副大臣は、「必要な規模を持続的に活用」という表現で「原子力はゼロにならないことを今回宣言した」と語り、運転期間上限の廃止にも言及しています。(「電気新聞」7月28日付)
「必要な規模を持続的に活用」という表現には、原発の新増設、運転期間上限の廃止など、原発をいつまでも使い続ける狙いが込められています。
政府案は、「世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた」原発の稼働を進めるとしています。安倍晋三前政権以来の決まり文句です。炉心溶融物保持装置(コアキャッチャー)など炉心溶融が生じた場合の対応設備もなく、事故時の避難計画が運転要件にもなっていない日本の基準は、欧米より「厳しい」とはとても言えません。規制基準適合を「安全」のお墨付きとするのは、新たな「安全神話」にほかなりません。
●ゼロへの潮流
経済の実態をみれば、原発はビジネスとして成り立たなくなっています。
東芝が米原発メーカーを買収して大赤字を出し、日本企業の原発輸出計画はすべて失敗しました。経済産業省の新しいコスト計算では、原発は太陽光発電や風力発電より高コスト(新設で比較)となりました。
既設原発も、規制基準対応の追加コストが5・5兆円(「東京」3月3日付)となるなど高コスト電源となっています。ちなみに、福島事故前の54基の総建設費は13兆円です。(「赤旗」日曜版11年9月18日号)
福島第1原発事故は、原発が「実用段階にある」技術などではないこと、ひとたび重大事故を起こせば暮らし、生業(なりわい)、文化など地域社会を破壊することを明らかにしました。今、原発は電源としても補助的役割しか担っていません。原発から撤退し、原発ゼロの日本をめざすべきです。(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年9月9日付掲載
菅義偉政権のエネルギー基本計画案は、原発について「実用段階にある脱炭素技術」「長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なべースロード電源」と位置づけ、2030年度の電源構成比を現行計画と同じ20~22%としました。さらに50年を展望して「必要な規模を持続的に活用する」と宣言しました。新型原発の開発を進めることも。
しかし、現時点でも原発は電力供給でも補助的な担い手でしかありません。処分の仕方も保存方法も確立していない放射性廃棄物を生み出す原発から一刻も早く撤退し、省エネルギーと再生可能エネルギーで希望ある未来へ向かいましょう。