■今年もなんとか作った棋楽庵閑話

毎年年賀状は、その年に起こった事件や社会の風潮を将棋用語に託し、「棋楽庵閑
話」と題して、戯れ文を出しています。これが結構時間がかかって大晦日と正月３
日間は年賀状作成に追われて終わってしまいます。投函し終わったあとはしばらく
放心状態となります。ただ結構楽しみに待っている方もいるので、これは嬉しいこ
とです。では今年の作を披露します。擬古文調にしているので読みにくい点はご容
赦ください。

棋楽庵閑話二〇〇六　「世界に輝け大八洲」

　旧年を振り返りてみれば大将小泉の巧みなる駒使ひのみ
目立ちたる也。参院での郵政民営化法案不成立を逆手に衆
院解散なる奇手を繰り出し、序盤にては造反議員未公認の
強手、更には刺客・くの一と鬼手・珍手の連発にて先手先
手と立ち回り、終盤は浮足立ちし敵方の歩票（兵）を取り
込み怒濤の寄せにて圧勝。終はりて見れば盤面の三分の二
を占拠せし事は何人も予想せざること也。今将に保元・平
治の乱を乗り越へし小泉清盛となりしか。然れども娑羅双
樹の花の色の譬へあり、我等から税を絞り取ること数多あ
れば盛者必衰の報いも受けん、ゆめゆめ奢ること勿れ。　

　耳目を引きしといへば、吹けば飛ぶよな将棋の駒ならぬ
将棋盤耐震強度偽装事件突如起こりてはや二カ月、棋界は
揺れに揺れたる也。盤面を支へし柱たる四つ足の骨組みの
粗さ材料の手抜きによりて対局者の同時に貧乏揺すりした
るならば忽ちにして崩れ落つること必定とは、三匹の子豚
にも笑はるる事態也。然も盤裏には「本品につきては姉歯
想を練りてのち木村作し非優挫（ヒューザー）売りたる上
物なりまた言違報夢不（イーホームズ）お上に替はりてこ
の質を証す」と仰々しきお墨付きのあるが大半也。確かに
土地に立ちし上物（うわもの）に間違いなきも上物（じょ
うもの）とは読めず。世間をたばかりし四者に裁きは下さ
れるべし。とはいへ砂上の楼閣故に住むこと能はずと告げ
られし駒の嘆き叫び盤上に谺しなほ止まず。此の住（重）
大難局面、打開の絶妙手ありやなしや、切に望む也。　　

　さて我が日の本を眺むれば悲しき哉相も変はらず「偽」
や「欺」が全土に溢れたり。改築ならぬ怪築にて高齢者を
食ひ物にしたる悪質リフォーム業者、或る時は泣き或る時
は脅しと戦法を次から次へと変へ携帯電話にて指し手を告
げ恐るべき勝率をあげし振り込め詐欺が一団、米・野菜に
始まりて浅蜊・牡蠣・鰻・牛肉に至りし数々の産地偽装等
々、枚挙に暇なし。何故、恩義忠義信義礼儀の「義・儀」
を忘れて「偽・欺」に走りし哀れなる世情となりしか。　

　戦ひ破れて六十年、欧米の真似事はいつしか美しき瑞穂
の国謙譲と美徳の国を蝕みて禍々しき国としたるなり。も
はやこのまま金銭崇拝物質至上の三等国になり下がりたる
か。いやいやさにあらず我等には世界に誇りし将棋あり。
礼に始まり礼に終はることこそ迷へる小羊を気高き精神世
界に導くもの也。我等将棋党今こそ国家を救ふべく一遍上
人に習ひて左手に将棋盤右手に駒を持ち歩（賦）算を配り
て将棋普及の遊行をすべし。全国民ただひたすら将棋を指
したるならば世界に光輝く大八洲とならん。　　　　　　

　皆様におかれましては今年も良き年でありますことを切
にお祈り申し上げる次第です。　

　　　平成十八年元旦　　棋楽庵敬白