診察後、首の骨のレントゲンを撮ることになり、待合室ロビーの壁際に立って待っていた。
待合室ロビーにいる受診者は、さらに数人、増えていた。と言っても合計10人ぐらいで、整形外科以外の診療科の受診者もいるため、コロナ禍だから少なめなのかもしれなかった。会話している人はなく、しーんとしている。
受付窓口のカウンターと、待合室ロビーをはさんだ反対側に、レントゲン室が2つあった。
10分ほど待った後、レントゲン室のドアが開き、レントゲン技師の男性から名前を呼ばれた。
返事をして、その部屋へ入った。
レントゲン検査は、何度も経験がある。風邪の診察、特定健診、人間ドック、骨密度検査、乳ガン検査の時だった。
40代の時、肉親からすすめられて受けた乳ガン検査のマンモグラフィは、悲鳴をあげそうなほど痛くて、1度で懲りてしまった。
その時のレントゲン技師を今も記憶しているが、仕事が楽しくて仕方ないと言わんばかりの明るい雰囲気の技師で、
「ちょっと痛いですよ~」
と、まるで歌うような口調で楽しげに検査機械を操作し、その残酷なマンモグラフィ撮影を行って、予想をはるかに超えた痛みを私の身体にもたらしたのだった。
(こんな検査、もう2度と嫌だわ!)
終了後、呟いた。羞恥に包まれるが医師の触診による検査のほうが、ずっとマシと思った。
それ以降、入浴時に自分の手で触れてシコリがないことを確かめるようにしている。
その乳ガン検査の時のレントゲン技師と、首の骨のレントゲンを撮る技師は、雰囲気がそっくりだった。まるで仕事が楽しくて仕方ないと言わんばかりの口調で、ひと言口にするたび鼻歌でも歌い出しそうなルンルン気分の様子なのである。
緊張した患者の気分をリラックスさせるための、レントゲン技師のマニュアルでもあるのかもしれなかった。
30代半ばぐらいに見えるレントゲン技師が、私の服について二言三言口にし、サマー・ジャケット姿のあちこちを軽く確かめるように見た後、
「じゃ、一度撮ってみましょうね~」
明るい口調で言いながら機械を操作し、頭部を真っ直ぐさせるように、手で私の顎を少し上げた。
「痛いっ」
と、思わず、私。首の筋肉の痛みのせいだった。
「痛いですか?」
と聞かれ、
「痛いです」
そう答えた。
次に技師が手で、私の顎を少し下げた。
「痛いっ」
と、私。
「痛いですか?」
「痛いです」
技師の指示に従った向きに立ち、
「息を止めて下さい」
と技師が言うたびに、私はそうした。身体の後ろからと、痛みのある右首の側面からと2回撮った。
終わってホッとしていたら、
「あ、駄目でした、ボタンと金具が映っちゃった~」
そう言って壁際のほうへ足を運び、
「これに着替えて下さいね」
と、淡い色の検査着を持って来た。
カーテンの奥へ行って着替えながら、
(最初からこの検査着に着替えさせてくれればいいのに)
チラッと、そう思った。服装のチェックをした後に、「1度撮ってみましょうね~」という言葉も気になった。あれはテストということなのだろうか。もちろんアクセサリーなど付けてないし、ジャケットのボタンを技師は眼にしたはずだった。
検査着姿で、ふたたび技師の指示に従った向きに立ち、背後からと側面からと2回撮った。
「どうしてレントゲン撮る時って、息を止めるんですか?」
合計4回、息を止めてと言われたためか、ふと気になって聞いてみた。
「ぶれて映らないようにです。息を止めてると身体が静止して、ぶれないからです」
技師が答えた。
長年の疑問が解けたような気がした。
検査着を脱ぎ、服に着替えて、また待合室ロビーで待っていた。
待合室ロビーにいる受診者は、さらに数人、増えていた。と言っても合計10人ぐらいで、整形外科以外の診療科の受診者もいるため、コロナ禍だから少なめなのかもしれなかった。会話している人はなく、しーんとしている。
受付窓口のカウンターと、待合室ロビーをはさんだ反対側に、レントゲン室が2つあった。
10分ほど待った後、レントゲン室のドアが開き、レントゲン技師の男性から名前を呼ばれた。
返事をして、その部屋へ入った。
レントゲン検査は、何度も経験がある。風邪の診察、特定健診、人間ドック、骨密度検査、乳ガン検査の時だった。
40代の時、肉親からすすめられて受けた乳ガン検査のマンモグラフィは、悲鳴をあげそうなほど痛くて、1度で懲りてしまった。
その時のレントゲン技師を今も記憶しているが、仕事が楽しくて仕方ないと言わんばかりの明るい雰囲気の技師で、
「ちょっと痛いですよ~」
と、まるで歌うような口調で楽しげに検査機械を操作し、その残酷なマンモグラフィ撮影を行って、予想をはるかに超えた痛みを私の身体にもたらしたのだった。
(こんな検査、もう2度と嫌だわ!)
終了後、呟いた。羞恥に包まれるが医師の触診による検査のほうが、ずっとマシと思った。
それ以降、入浴時に自分の手で触れてシコリがないことを確かめるようにしている。
その乳ガン検査の時のレントゲン技師と、首の骨のレントゲンを撮る技師は、雰囲気がそっくりだった。まるで仕事が楽しくて仕方ないと言わんばかりの口調で、ひと言口にするたび鼻歌でも歌い出しそうなルンルン気分の様子なのである。
緊張した患者の気分をリラックスさせるための、レントゲン技師のマニュアルでもあるのかもしれなかった。
30代半ばぐらいに見えるレントゲン技師が、私の服について二言三言口にし、サマー・ジャケット姿のあちこちを軽く確かめるように見た後、
「じゃ、一度撮ってみましょうね~」
明るい口調で言いながら機械を操作し、頭部を真っ直ぐさせるように、手で私の顎を少し上げた。
「痛いっ」
と、思わず、私。首の筋肉の痛みのせいだった。
「痛いですか?」
と聞かれ、
「痛いです」
そう答えた。
次に技師が手で、私の顎を少し下げた。
「痛いっ」
と、私。
「痛いですか?」
「痛いです」
技師の指示に従った向きに立ち、
「息を止めて下さい」
と技師が言うたびに、私はそうした。身体の後ろからと、痛みのある右首の側面からと2回撮った。
終わってホッとしていたら、
「あ、駄目でした、ボタンと金具が映っちゃった~」
そう言って壁際のほうへ足を運び、
「これに着替えて下さいね」
と、淡い色の検査着を持って来た。
カーテンの奥へ行って着替えながら、
(最初からこの検査着に着替えさせてくれればいいのに)
チラッと、そう思った。服装のチェックをした後に、「1度撮ってみましょうね~」という言葉も気になった。あれはテストということなのだろうか。もちろんアクセサリーなど付けてないし、ジャケットのボタンを技師は眼にしたはずだった。
検査着姿で、ふたたび技師の指示に従った向きに立ち、背後からと側面からと2回撮った。
「どうしてレントゲン撮る時って、息を止めるんですか?」
合計4回、息を止めてと言われたためか、ふと気になって聞いてみた。
「ぶれて映らないようにです。息を止めてると身体が静止して、ぶれないからです」
技師が答えた。
長年の疑問が解けたような気がした。
検査着を脱ぎ、服に着替えて、また待合室ロビーで待っていた。