私の古い友人に神居渡という人物がいる。この名前は本名ではなくペンネームである。彼は名古屋で舞台関係の仕事に就いたのち定年を迎えた。演劇や歌舞伎にも通じている人物である。彼が書き物をするときの名前が先の神居渡なのである。
このペンネームを使う由来をいつか聞いたことがあった。
それによると「神居=カムイ」で、渡は「わたる=ワタリ」であるという。すなわちこのペンネームは白土三平の作品の主人公、カムイとワタリからの借用とのこと。
その白土三平氏は先月に亡くなっていた。八十九歳であったという。
「カムイ」も「ワタリ」も我々には懐かしい名である。今から半世紀以上も前、白土作品が劇画月刊誌や少年雑誌に掲載されていた。それらの作品を競って読み漁った事を思い出した。
さて、白土の作品は人により好き嫌いの分かれる所だが、その主な理由は「階級史観漫画」だからと言われることがある。確かに白土作品には「下忍」などの最下層の人たちが、領主の圧政に農民とともに立ち向かうストーリーが多い。そしてその時に「上忍」は領主側の補完者として登場している。
このようなパターンが「階級史観漫画」であると言われる所以なのだろうが、彼の漫画の真髄はそれだけではない。実は白土三平は自然界の動植物への洞察が鋭く、山野草から動物の狩猟の仕方、獲物の捌き方まで細かく描写している。それが証拠には小学館のビーパルというアウトドア雑誌に連載記事も長く掲載していた。白土三平はいわば博物学者でもあったのである。
白土氏の作品を今度は博物誌として読んでみたいと思っているのである。さらに言えば、SDGsへの取り組みの仕方をそこから示唆を得ることもできるかもしれない。
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