内的自己対話-川の畔のささめごと

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「私たちのアイデンティティ」と哲学 ― ヴァンサン・デコンブの対談を読む(27)

2015-07-24 00:30:00 | 読游摘録

 « Les individus collectifs »(〈集団的個体〉)と題された、Exercices d’humanité の第二章で、デコンブ氏に向けられた最後の質問は、次のような質問であった。
 集団的同一性の定義 ― 例えば、国家的あるいは国民的アイデンティティの定義 ― を巡る今日の論争の結果とは、どのようなものか。
 以下がこの問いに対するデコンブ氏の回答である。
 哲学者は、政治的議論の中で提起された問題をそのまま取り上げ直すこともできないし、それに自分の答えを与えようと宣言することもできません。哲学者として、私は、この公共の問題を自分自身に対してまず解き明かす必要があるし、その問題について提出された結論の理由や前提を把握しなくてはなりません。それゆえ、公共の議論が考慮に入れることができない様々な考察に立ち入る必要があります。これらの手続きを経てはじめて、公共の議論の争点について自分の立場を表明することが可能になります。「私たちのアイデンティティ」と呼ぶのが相応しいものをどう定義するかという今日の議論に関して言えば、それに対して哲学者ができる貢献とは、同一性の基準を確立することの必要性を明らかにすることでしょう。その認定基準は、それぞれの場合によって異なります。誰がこの村の住人か、誰がこのサッカー・クラブのメンバーか、誰がこの宗教団体の信徒か、それぞれ基準は違います。私たちが今その中で生きている近代国家についてはどうでしょう。そこでは、国籍の基準は、純粋に政治的なものでなければなりません。それが意味することは、その基準は、市民権(citoyenneté)の基準と一致していなければならないということです。