内的自己対話-川の畔のささめごと

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個体を通じて、諸種の社会はやがて一つの〈世界〉になる、という希望の倫理 ― ジルベール・シモンドンを読む(152)

2016-11-10 00:00:00 | 哲学

 ようやく ILFI の結論最終段落に辿り着いた。短い段落なので、全文をまず引用する。

L’éthique est ce par quoi le sujet reste sujet, refusant de devenir individu absolu, domaine fermé de réalité, singularité détachée ; elle est ce par quoi le sujet reste dans une problématique interne et externe toujours tendue, c’est-à-dire dans un présent réel, vivant sur la zone centrale de l’être, ne voulant devenir ni forme ni matière. L’éthique exprime le sens de l’individuation perpétuée, la stabilité du devenir qui est celui de l’être comme préindividué, s’individuant, et tendant vers le continu qui reconstruit sous une forme de communication organisée une réalité aussi vaste que le système préindividuel. A travers l’individu, transfert amplificateur issu de la Nature, les sociétés deviennent un Monde (p.335).

倫理は、それによって主体が主体のままにとどまることである。絶対的個体、現実の閉ざされた領域、切り離された特異性になることを拒否することによって主体であり続けることである。倫理は、それによって主体が常に緊張を孕んだ内的・外的問題性の内に留まることである。つまり、現実の現在の中に留まり、存在の中心的帯域に生き、形相にも質料にもなろうとはしない。倫理は、恒常化された個体化の意味(向かうべき方向)を表現する。倫理は、生成の安定性を表現するが、その生成は前個体化的なものとしての存在の生成である。この前個体化的なものが自己個体化し、連続的なものを志向する。この連続的なものが、組織化された伝達という形の下、前個体化的システムと同じほど広大な現実を再構築する。個体を通じて、つまり〈自然〉から生まれた増幅的転移者を通じて、諸種の社会は一つの〈世界〉になる。

 これまでのILFIの読解作業全体から得られたシモンドン哲学の理解を前提としつつ、上掲の段落に見られる倫理の規定を、存在・生成・個体化・主体・技術・自然・世界等の諸概念との関係において、より大きな文脈の中で規定し直してみよう。
 存在とは生成である。生成は個体化過程として恒常的に実現されつつある。個体化過程は大きさの秩序を異にした複数の次元において展開される。この多次元的過程にあって、人間存在は、個体化過程の一齣として、行動の主体となる。行為の主体であるかぎり、人間存在は、完全に個体化された個体ではありえない。自存自閉した自己同一的実体ではありえない。
 主体は、行為的連関の中で他の諸主体と関係する。この関係性は個体間関係には還元され得ず、心理-社会的個体化過程として表現を得る。したがって、主体の内的問題は外的問題と不可分である。
 あらゆる個体は、己がそこから形成された前個体化状態を多かれ少なかれ内包している。個体は、その前個体化的なものを通じて、そしてそれを超えて、他の個体と繋がり、繋がりを転移・増幅させていく。
 生成のうちには、恒常的に維持されうる安定性はありえず、暫定的な安定性、つまり準安定性しかない。前個体化状態から個体化過程を通じて通底的且つ超越的個体性へと向かう存在過程にあって、その都度準安定性を拠りどころとしながら、主体は、そこに発生している問題の解決を、対象そのものと直接的に対話する技術的関係を形成することによって図り、より高次の準安定性を志向する。
 〈自然〉から〈世界〉へと向かう存在生成個体化過程にあって、倫理は、主体による技術的創案を通じて、個体化の意味、つまりその向かうべき方向を表現する。
 今日のこの記事をもって連載「ジルベール・シモンドンを読む」を終了する。