内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

理性の指導に従った漸進的改革が決してできない国、それがデカルトの生国である

2018-04-10 21:41:28 | 哲学

 大学入学制度改革反対派の学生たちによる学内の複数の建物の封鎖は今日も一日続いた。日本学科のある建物も完全封鎖されている。私自身は、月火とももともと授業がないので、自宅でできる仕事を今日も淡々と続けた。しかし、今日に関して言えば、改革反対派が弾劾している入学志望者の順位づけ作業を継続する気にはさすがになれなかった。
 フランス大学教育史上「歴史的」とも言えなくはない今回の改革に対して反対か賛成かという以前に、この改革の前提自体が馬鹿げているというのが私の率直な意見である。そもそも、大学入学に際して、選抜を行わないというフランス大学教育の大原則を根本的に問い直すことなしに、現に進行しつつある事実上の選抜制度は、矛盾と欺瞞と偽善とに満ちている。その限りで、改革反対派の学生たちの怒りは理解できる。
 大学においては学科長という立場にあるから、上から言われたことは一応「粛々と」私は実行している。しかし、気持ちは完全に覚めている。馬鹿馬鹿しくて怒る気にもなれない。大学に所属する教育研究者として国家公務員ではあるが、フランス国籍はなく(そもそも取得する気はない)、したがって、投票権もない。投票権を持たない一外国人長期居住者すぎない私は、現大統領及びそれによって組織された政府が打ち出す政策に対して、いかなる意味でも責任を持たない。
 内なる外部観察者としてこの国で生きようと決めて、すでに十数年が過ぎようとしている。この立場を変更することはない。
 理性の指導に従った漸進的改革を歴史上ただの一度も実現できたことのないこの国(デカルトは本当にフランス人だったのだろうか?)は、こんな無益な疲弊と滑稽な騒乱と喜劇的な混沌を繰り返すことによって、実のところ、なんら実効性のある大学教育改革を実現できないまま、68年5月革命50周年を来月迎えようとしている。
 Vive la France !