内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

尊者ピエールがエロイーズ宛の書簡で伝える最晩年のアベラールの姿

2022-12-22 23:59:59 | 読游摘録

 今日は日中気温が十二度まで上がった。先週末の大寒波が嘘のようである。昨日も今日も明け方から昼ごろまで雨が降ったこともあり、もう雪は跡形もない。
 午後から晴れ間も広がった。ただ、風が強かった。ジョギング中、向かい風のときは押し戻されるように、追い風のときは背中を押されているように感じられ、横風のときはバランスをくずしそうになるほどだった。
 天気予報によれば、ノエルは雨模様の暖かい日になりそうだ。ノエルの後、年末に向かって少しずつまた気温が下がっていくようだ。
 年末が締め切りの原稿は今日書き始めた。この論文の基礎となる二つの草稿と既発表の論文が三つあるので、そんなに時間を掛けずに仕上げられるだろう。
 畠中尚志訳『アベラールとエロイーズ――愛と修道の手紙』の訳者解説の中に、アベラール最晩年の姿を伝える尊者ピエール(ペトルス・ウェネラービリス Petrus Venerabilis)のエロイーズ宛の書簡がかなり長く引用されている。とても感動的な文章だ。弔辞として死者を讃える意味合いもあり、聖人伝的な定型も混じっているだろうし、エロイーズへの配慮も働いているであろうから、すべて額面通りには受け取れないにしても、アベラールが最晩年に至り着いた境地を見事に描き出している。
 この尊者ピエールは、伊東俊太郎の『十二世紀ルネサンス』(講談社学術文庫、2006年、原本、岩波書店、1993年)に「十二世紀において西欧とイスラムの間に立っていた、最も善意ある良識に富むキリスト教聖職者として」詳しく紹介されている。
 ジャック・ヴェルジェ(Jacques Verger, 1943-)の L’amour castré. Histoire d’Héloïse et Abélard, Hermann, 1996 にも尊者ピエールのエロイーズ宛の書簡は「十二世紀が私たちに遺した最も美しいテキストの一つ」(p. 184)として、その内容が詳述されている。