第3部 持続可能的計画経済への移行過程
第7章 経済移行計画Ⅰ:経過期間
(6)土地所有制度廃止準備
移行期における貨幣制度廃止準備と並ぶ関門は、土地所有制度の廃止準備である。すなわち、土地を何者にも属さない無主物として管理するシステムへの移行である。
ここで留意すべきは、このプロセスは従来しばしば社会主義的土地政策として諸国で施行されることもあった土地の国有化とは全く異なるということである。土地の国有化は、土地の所有権主体を私人から国に移転させるのみで、土地所有という観念をなお残している。
しかし、ここで言う土地所有制度廃止とは、そもそも土地を「所有」という観念から解放し、野生の動植物と同様に所有権主体を有しない自然物とすることを意味している。言わば、地球そのものを元の自然状態に戻すことである。
従って、土地の個別的な接収のように有償ではなく無償の法的措置となるが、国その他の公共団体が私有地を強制的に無償で接収する社会主義政策とも異なり、単に法的観念のうえで土地所有権を消滅させるものである。
もっとも、このことは土地を原始的な無管理状態で放置することを意味しないから、各領域圏ごとに土地を公的に管理するシステムを構築しなければならない。そうしたシステム構築の準備は移行期に開始される。
その第一段階は、土地所有権消滅法の制定である。これは土地所有制度廃止の法的根拠となる法律である。ただし、混乱を避けるため、土地所有権の消滅は遡及的でも即時的でもなく、将来の期日を定めた将来効とする。
第二段階は、将来の土地管理機関の前身となる組織の設立である。土地管理機関は無主物化された土地の公私の利用や処分全般に関する事務を所掌する公的機関であるが、その前身組織としては現行の土地登記機関(登記所)を統合して設立することが簡明であろう。
登記所は土地所有制度を前提に私有地の現況を公示する登記の事務を所掌する機関であり、現状では登記の形式的な事務のみを扱うが、錯綜した土地の所有に係る情報を包括的に把握している公的機関であるから、これを移行的に土地管理機関に再編することは合理的と考えられる。
なお、将来の土地管理機関は土地の侵奪や押領などを取り締まる警察機能を備えるので、その前身組織にも法執行部署を設置し、不動産事犯の取締り態勢を準備する。