第5章 市民法の体系
(1)共産主義的市民法の内容
市民法とは市民としての権利及び義務について定める法典であり、資本主義的法体系では「民法」にほぼ相当するが、共産主義的市民法と資本主義的民法の内容は完全に重なるわけではない。
資本主義は所有権と契約を二大法的基礎概念として成り立つので、この二つの法的な諸規定を収めた民法が法体系上最も重要な意義を持つ。これに対して、共産主義においては所有権と契約の概念は否定されないものの、それらの比重は低下するため、市民法の比重自体も前回までに見た環境法や経済法に比べて劣後することになる。
共産主義的市民法において中心を成すのは市民権法である。市民権法は民法の一分野である家族法にほぼ相当する内容を含むが、ここには市民としての身分に関する規定、すなわち住民権や公民権に関する諸規定も包括されるので、家族法と完全にイコールではない。
その意味で、共産主義的市民法は純粋の私法ではなく、公法的な性質を併せ持つ。そもそも共産主義社会には国家という観念が存在しないので、法体系上も国家と国民の関係を規律する公法と私人間の権利義務関係を規律する私法という二項対立的な概念区別は想定されていない。
共産主義的市民法の編成をより具体的に述べれば、それは(1)住民権(2)公民権(3)親族権を内容とする市民権法及び(4)契約法(5)物権法(6)相続法を内容とする財産権法とから構成される。
財産権法は資本主義的民法にあっては個人財産に関する諸規定を収めた中核部分を成すが、これは資本主義において個人財産は憲法上も不可侵と宣言される最大の法的基盤を成すことからして、自然なことである。
しかし、共産主義的市民法における財産権法は共産主義的に留保・保障される個人財産の内容とその譲渡、貸与、相続を含む承継をめぐる技術的な諸規定を収めた二次的な部分を構成する。