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ミステリ感想-『背の眼』道尾秀介

2006年10月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「レエ オグロアラダ ロゴ……」
河原で耳にした不気味な囁きの意味に気づいた道尾秀介は、「霊現象探究所」を営む旧友・真備庄介を訪ねる。
真備の元に寄せられていた、背中に眼の浮き出した写真との関係は?
第5回ホラーサスペンス大賞特別賞。


~感想~
いま最も注目べきミステリ作家のデビュー作。
ホラー小説の賞を獲っただけはあり、一部の怪奇現象は霊のしわざとして処理されたり、霊能力者が登場したりもする。
しかし解かれるべき謎は現実に足を着けて論理的に解かれ、ミステリとしても文句なく成立している。
「レエ オグロアラダ ロゴ……」の意味を解く導入部からして秀逸。それだけでもホラー短編として十分に成立するが、それもただの前フリにすぎない。背中に眼が浮き出た写真を撮られた者が次々と自殺していくという謎を主体に、民俗学もからみながら物語は進んでいく。
後の『骸の爪』や『シャドウ』のような、表の物語を語ることで裏で進行している物語を隠す二重構造も、まだまだぎごちないとはいえ健在。ともすれば地味な、衒学に傾きそうになる物語を最後まで飽かさず読ませてくれる。
終盤の真犯人との対決は、あの憑き物落としさながら。解決ではページを多く費やし、この物語でしか語り得ない真相を現出させるところも京極夏彦をほうふつとさせる。そしてなんといっても幕切れがいい。『骸の爪』や『シャドウ』と同じく着地が本当にうまい作家である。
シリーズ第二作の『骸の爪』では、ガチガチの本格ミステリとして没個性だった真備の内面も深く描かれ、ミステリのみならず小説としても抜群の出来。ホラーとしても申し分なく、傑作はジャンルを超えることを教えてくれる。
間違いなく10年先には大家として知られるだろう道尾秀介。本作はその第一歩として見逃してはならない。


06.10.23
評価:★★★★ 8
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