小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『ベルカ、吠えないのか?』

2022年05月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
1943年、日本軍の撤退したキスカ島に取り残された4頭の犬。米軍の捕虜となった彼らの子孫は世界各地に散らばり、あるいは軍用犬として、あるいは橇犬として数奇な運命をたどっていく。

2005年このミス7位、直木賞候補

~感想~
未読の方はまず文庫版を手に取り、書き下ろしのあとがきを読んで欲しい。数年後に書いたとは思えないとんでもない熱量のキレッキレというかキメッキメの文章で、これを読んで無理だと思ったら棚に戻したほうが無難である。
本文はもっと熱がすごい。文章は破綻寸前で、理解よりもグルーヴ感を追い求めているように突っ走りまくる。
犬の年代記を描きつつ、犬という題材で20世紀を包括し、際限なく風呂敷が広がっていき、最終戦争に至る。そのラストバトルがちょっとあっさりしているのだが、延々と書こうと思えばいくらでも引き伸ばせた物語を、長編としてもコンパクトな分量に留めたのは賢明な判断というべきだろう。
「アラビアの夜の種族」で恐るべき想像力を発揮した(※もう「アラビアの夜の種族」のアレと「屍人荘の殺人」のアレはネタバレじゃなくていいよね?)作者が、史実を下敷きに妄想を爆発させた渾身の力作で、文体が苦手でさえなければ一読の価値がある。


22.5.7
評価:★★★ 6
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