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ミステリ感想-『猿丸幻視行』井沢元彦

2021年06月20日 | ミステリ感想
~あらすじ~
折口信夫を敬愛する大学生の香坂明は、過去の人物の精神に乗り移れるという試薬の臨床試験に誘われる。
謎多き猿丸太夫の子孫でもある明は、家に「神宝を得て天下を制する」と伝わる暗号の謎を解くため、折口信夫の精神へと時間遡行する。

1980年文春1位、乱歩賞、東西ベスト(1985)58位、本格ベスト66位

~感想~
1980年刊行の異世界転生ミステリ!…というわけではなく、明は折口信夫の精神にお邪魔して人生を覗き見ることしかできない。あって無いような説明しかされない謎の試薬や、梅原猛「水底の歌」の内容にかなり依存した話には、牽強付会に過ぎる面もあるが、この設定でしかなしえない物語ではあり、要するにこまけぇこたぁいいんだよ!!

暗号・いろは歌・明治の偉人と、2016年にこのミス1位に輝き、そして全く口に合わなかった竹本健治「涙香迷宮」にかなり趣向は近く、これも楽しめないのではと読む前には危ぶんだが、全くそんなことはなく普通に面白く読めた。
暗号解読にももちろんかなりページを割かれるが、それだけではない「猿丸太夫とは誰だったのか?」という謎解きや、歴史の裏に隠された暗闘と壮大な大風呂敷を広げる歴史ロマン、そして謎を追う人々の不審死が、根深い因習の残る閉鎖された村で起こる。さらに折口信夫というこれも謎多き人物を掘り下げるのだからすごい。
現実パートの事件が極めてどうでもよかった「涙香迷宮」は、本作を目指しそして追いつけなかったのかなと今では思う。
折口信夫・万葉集・平安時代の歴史のいずれかに興味があればぜひ読んで欲しい、文春1位も納得の秀作である。

なお解説の中島河太郎は(珍しく)主にあらすじ面のネタバレしかしていないが、本編であるトリックが漫画でわかりやすく図示されているので、くれぐれもページをパラパラめくらないよう注意喚起しておく。


21.6.17
評価:★★★☆ 7

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