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ミステリ感想-『忌名の如き贄るもの』三津田信三

2021年08月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
生名鳴地方に伝わる忌名の儀礼。それは災厄を実体のない名前にかぶせるためのものだが、儀礼のさなかに夜雀、首虫、角目ら様々な怪異が現れる。
刀城言耶の先輩である発条福太の婚約者は、14歳の時の忌名の儀礼で恐ろしい目に遭い…。


~感想~
近作では物語の展開がまた以前のようなスローペースに戻りつつあるシリーズ長編だが、本作はぶっちぎりで話が進まない。
第一の事件が起きるまでに1/4以上のページを費やし、その事件も怪異は絡んでいるものの不可能状況や密室というわけではなく、それどころかやたら人の出入りが激しくわちゃわちゃしていて、そもそも解くべき謎も「犯人は誰か?」一点で、刀城言耶シリーズとしては抑えめに見える。
捜査も動機とアリバイにばかり焦点が当てられ、さては今回はそのどちらかに工夫を凝らしてきたなと察しが付くものの、捜査が進んでもやはり事件にとんでもない怪異が立ち現れては来ない。
そしていつもよりふわっとした感じで解決編が始まり、シリーズ名物のアレも行われないが、ここからは期待通りで、限界に挑戦するような少ない残りページで多重推理が繰り出され、次から次へと意外な真相が飛び出す。
到達する結論はいくらなんでも無茶ではと思うものの、動機とアリバイは成立し、煮え切らない所はあるが、一定の説得力を持ち、破綻していない。

――が、そんなものでこのシリーズが終わるわけがなかった。

最後の最後に明かされる、章題に普通に書かれているある秘密。
それが全てをブチ壊す。これはすさまじい。シリーズで一番驚いたし、周りに人がいなかったとはいえ思わず「うおおお!」とうめいてしまった。
たった一言で説明できるし、おそらくこの1アイデアから全てが始まっている。
そこにもちろん怪異も絡み、あまりに完璧すぎて文句の付けようもない。これをやるならそりゃアレは行われない。アレはぜひ見たかったが仕方ない!
解決編まで極めて地味でゆっくり話は進むが、真相の衝撃度では間違いなくシリーズ屈指だし、最も好みかもしれない。これは本当に驚いた。


21.8.17
評価:★★★★☆ 9

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