~あらすじ~
昭和9年、佐世保湾で爆発し沈没した水雷艇「夕鶴」
昭和16年、真珠湾攻撃のさなかに起こった3つの事件。
それらが重ね合わさり浮かび上がる驚愕の真実。
1998年このミス7位、文春5位、本ミス8位、日本推理作家協会賞候補
~感想~
まず文章がものすごくくどい。芥川&直木賞作家の粋を尽くした比喩・情景・心理描写のラッシュで、もうそれだけで文字数の半分を埋め尽くす勢い。
しかも他人の一挙手一投足に目を光らせては些細な発言・仕草からねちっこく悪意や愚昧さを汲み取り、上から目線で軽蔑・嘲笑する純文学しぐさがふんだんに凝らされ実に辟易した。芥川賞作家は文章をゴリゴリに盛るか赤裸々な性を描かないと死ぬの?
加えて(これが本作の醍醐味なので詳細は伏せるが)中盤以降はある趣向により虚実と時間軸が入り交じった構成となり、状況把握こそ卓越した文章力のおかげで難なくできるものの、悪夢めいて混沌としぐっちゃぐちゃになる物語は好みが分かれることだろう。
その肝心の趣向・発想は出版当時なら斬新だったのだろうが、今となっては「転生なろう物の一派」に堕してしまい、そのわりに太平洋戦争を舞台とした歴史if物には一切転ばず、しかしそっち系で最もやってはいけない、現在の知識を元に過去の人物に「未来の日本はこうなるだろう」「こうした考えが常識になるに違いない」と言わせまくるのは実に痛く、これも「転生なろう物の一派」感をいやましている。
そして「グランド・ミステリー」と銘打ちこのミス7位、本ミス8位と高評価されているものの、ミステリとしては実に残念であり、事件は揃いも揃ってそりゃないぜと頭を抱えたくなる小粒な真相・動機・トリックで、これだけ長大な物語を支えうるものではない。
ただ(この手の作品に毎回言ってる気がするが)ラストシーンは最高だったし、きっとミステリ馬鹿ではない一般的な本好きならば楽しんで読めるのだろう。
だが超読みづらい文章とあいまって、1ヶ月近く付き合ったが歴史好き・SF好き・ミステリ好きの自分をもってしても、「うわ~んもう芥川賞作家はこりごりだよ~」とジャンプして顔を切り取られて暗転するしかない、ほとんど苦行に等しい体験だった。
21.12.8
評価:★ 2
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