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ミステリ感想-『鍵の掛かった男』有栖川有栖

2021年10月23日 | ミステリ感想
~あらすじ~
推理作家の有栖川有栖は、大物作家の影浦浪子から、執筆に使うホテルに定住していた謎めいた男の死が、自殺か否かを火村英生に調べて欲しいと依頼される。
試験期間中で動けない火村の代わりに有栖川は調査を始めるが、その男の生涯はまるで鍵が掛けられたように厳重に閉ざされていた。

2015年このミス8位、文春5位、本ミス7位

~感想~
火村英生シリーズ最長で、面白いは面白いが絶対こんなに長い必要はない。
仕事で身動きの取れない火村が出張ってくるのは中盤以降だが、本作が面白いのは有栖川有栖による素人探偵パートの方。丹念な調査と、少しばかりの幸運から次第に浮かび上がってくる「鍵の掛かった男」の生涯と、意外な事実は読ませる。古色蒼然たる夢の中での被害者との語り合いやら、ただ丁寧に同じ内容を繰り返すだけの回想はやっぱり必要なくて長いけども。
この有栖川パートを「ハードボイルド」とする感想をちらほら見たが、全然さっぱりハードボイルド味は感じないものの、シリーズでも随所に見られた、火村より遅れているだけでわりと真相に近付いてるし推理も正しい、意外と有能なワトソン有栖川の実力が存分に発揮されており、ぶっちゃけ時間さえ掛ければ火村はいらなかった気さえする。
対して火村パートは到着早々に新証拠を次々と見つけ一気に調査を進めるが、(ほとんど言いがかりに等しいが)言ってしまえばただの本格ミステリに戻っており、本作の特徴だった一歩ずつ着実に進める、サッカーに例えれば遅攻の楽しさは無い。
また真相や解決や動機が、個別に取り出してみればこれだけの長編を支えられるものでは全くないのも厳しいところ。一人の鍵の掛かった男の正体を追う物語としては面白かったが、大長編の本格ミステリとしては高い評価はとてもできない。

同じ題材で書かせたら、東野圭吾ならば本格ミステリに特化して枝葉末節をカットし短くしたか、ミステリ味をもっと削ぎ落として「白夜行」・「幻夜」のように仕立て上げただろうし、宮部みゆきなら絶対もっと面白かったはず、というかそれが「火車」である。
正直なところ自分は作者があまり好きではないため評価は辛くなったが、それでも前半パートを中心に楽しく読めたので、作者のファンなら文句なしに楽しめ、シリーズでも上位にランクインさせるほどの作品だろうとは思う。


21.10.22
評価:★★★ 6

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