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ミステリ感想-『MISSING』本多孝好

2019年07月12日 | ミステリ感想
~収録作品とあらすじと感想~
1999年このミス10位

小説推理新人賞を受賞した「眠りの海」を1編目に置き、受賞から5年後に発表したデビュー作となる短編集。

このミス10位だからという理由だけで読み始めたが、冒頭の「眠りの海」が人を殺さないハスミンみたいな高校教師が、不良女子高生と道ならぬ恋に落ちるありきたりな流れから、急速に本格ミステリに舵を切って心をつかまれた。

続く「祈灯」も子供の頃に事故死した妹を名乗る不思議ちゃん女子大生の真意が、何気ない手掛かりから一気に明かされていくミステリぶりと、それどころじゃないほど深刻にドロドロしていた家庭の事情が全くの余談として背後から出てくる展開に驚かされた。

「蝉の証」は老人ホームに入所した男性が詐欺にあっているのではないかという疑惑が、軽快に口の悪い語り手の調査から意外な事実に転じ、なんとも言えない余韻を残す2つの結末につながる。

逆の意味で最も心を動かされたのは「瑠璃」で、無軌道と非常識を擬人化したような傍若無人な女を筆頭に、ひとに迷惑を掛けることを非凡だと勘違いしているイキリどもがイキってイキってイキり倒す62ページの地獄を味わわされた。お前ら全員辞書で「責任」という言葉を調べて赤線引いてこい。

「彼の棲む場所」は人気コメンテーターの完璧超人みたいな男が、ハスミンみたいな内面を吐露していくやべえ話で、ミステリにもホラーにも転がせられるのに、どこにもたどり着かず宙ぶらりんのまま幕を閉じる構成で、これをデビュー作の掉尾に置く作者の不敵さも同じくらいやばい。

ミステリに分類できるのは3編目の「蝉の証」までだが、デビュー作離れした軽快な筆致と豊富な比喩で読ませる力は十分。他にもランクインした作品があればぜひ読みたかったが、これ一作限りなのは残念である。
だが自分のようなミステリ馬鹿にも、ランクイン云々に関係なく、機会があれば他の評判の良いものだけでも読んでみたいと思わせる、面白い一冊であった。


19.7.11
評価:★★★ 6

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